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私の決意
「ストラウド、ごめん。せっかく来てくれたのに悪いんだけど‥‥‥。私、やっぱりこの城に残るわ」
「え?」
「本当は全部捨てて、この国から‥‥‥。この城から今すぐ逃げだしたいの。でも私に、この国を捨てることは出来ないわ。だってやっぱり、この国の国民を愛しているんだもの。裏切ったりなんて出来ない‥‥‥」
私は思い出していた。救済院で会った人々を‥‥‥。歯の抜けたおばあちゃんが、「旦那を助けてくれてありがとう」と泣きながら縋ってきたこと。サクフォン辺境伯領で会った領民が温かく受け入れてくれて、気さくに話しかけてくれたこと。孤児院で遊んで、素敵な友達をたくさん作れたこと‥‥‥。どれもこれもみんな、この国での素晴らしい思い出だ。自分から、自分の幸せの為だけに親しい人たちの手を手放したくはないと思った。
「やっぱりな‥‥‥。俺は、リリアがそう言うと思ったよ」
「俺は?」
「いや、スザンヌが『行け、行け』って、うるさいからさ‥‥‥。行く必要はないと思ったんだけど、思ったより元気そうで良かったわ。会いに来て良かった」
「私も‥‥‥。ストラウドの顔見て、ホッとしちゃった。私を振ったんだから、1年に1度くらいは顔を見せに来なさいよ」
「何だそれ‥‥‥。普通、逆じゃないのか?」
「いいの。まあ、お土産とか? 期待しないで待ってるわ。ソンソムニア王国にとって有益な情報とかね」
「俺を便利屋として呼ぶつもりか? 高くつくぞ」
「お金とるの? 家族割でお願いします」
「ハハっ‥‥‥。相変わらずだな、お前は」
「リリア様? 何してるんだ、くせ者!!」
廊下の奥から、サクフォン伯爵が走ってくるのが見えた。どうやら潮時らしい。
「じゃあな、リリア。また来るよ」
「待ってるわ‥‥‥。また、1年後に」
ストラウドは、バルコニーの手摺りに手をかけると身を乗り出し、私の額にキスをした。
「俺の可愛い妹分に幸せがあらんことを」
ストラウドは屋根を登ると、あっという間に見えなくなっていた。
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