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禁書庫
私は部屋の奥にある掃除用具箱から掃除道具を取り出すと、ハタキで本の上をハタいていった。棚から棚へ掃除していると、棚は続いているのに別の部屋へ入ってしまっている事に気がつかなかった。
地下室で、もともと換気が出来ないせいかカビ臭かったが、その部屋は更にカビ臭くて鼻が曲がりそうな臭さだった。
「くさっ‥‥‥」
ハタキハタいているうちに、棚と棚の間にあるヌメっとしたものに触ってしまう。
「えっ‥‥‥」
黒い塊の物体に引きずり込まれるように吸い込まれると、私はいつの間にか暗い部屋の中に立っていた。
「おまえ、そこで何をしている?」
「ひっ‥‥‥」
肩を掴まれ、振り返るとそこには魔王であるステファンが立っていた。
「も、申し訳ありません。書庫を掃除していたら、何故かここに来てしまいまして‥‥‥」
「おまえは、昨日の‥‥‥」
「セシルでございます」
「‥‥‥仮の名か。入ってはいけない禁書庫とは知らずに掃除をしていたな?」
(え? 禁書庫って、一体どういうこと?!)
私が目を白黒させていると、魔王は私に近づき身体を引き寄せてキス‥‥‥。するかと思いきや、私の耳を噛んでいた。
「いった────い!!」
目を潤ませながら魔王を睨んだが、彼は長い前髪を揺らしながら笑っていた。
「これで、お前は俺の所有物だ」
「え″っ‥‥‥」
耳が痛かったので、押さえながら部屋の中にある鏡の前まで行き、自分の耳を見た。予想通り耳は赤く腫れており、腫れた耳の耳たぶには、身に覚えのない赤いピアスが付いていた。
「ピアスは俺の所有物だという証だ‥‥‥。お前は見ていて、どうも危なっかしくてな。今日も、刺客が来てたぞ。お前、自国で一体何をやらかしたんだ?」
「何も‥‥‥。としか、答えようがないのですが‥‥‥」
「まあ、いい‥‥‥。名を明かせぬのなら、せめて俺のものになれ、セシル」
魔王の人差し指がピアスに触れると、暗い部屋に光が溢れた。光が溢れたことによって、昨日の夜、私が転移した部屋だということに気がついた。
「なっ‥‥‥」
「迎えが来たようだ。書庫に戻れ」
魔王が私の身体から手を離すと、再び黒いヌメヌメとした物体に包まれた。気がつくと、私は書庫の前に立っており、目の前にはアーデルハイドさんがニコニコとした笑顔で立っていた。
「魔王様の所有物になられたのでございますね。それは、ようございました」
「へっ?」
私は訳がわからないまま、執事のアーデルハイドさんに連れられて、昼食をとるために食堂へ向かったのだった。
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