貴族館へ②

1/1
377人が本棚に入れています
本棚に追加
/97ページ

貴族館へ②

「いえ、あの・・・今度とか、なくて大丈夫です」 「・・・はい?」 「あの・・・正直に申しまして、やはり貴方のことは好きになれそうにないのです・・・好きな人に振り向いてもらえないツラさは私も、分かっているつもりです。だから・・・余計に結婚はすべきではないというか、何と言うべきか・・・」 サクフォン伯爵は、テーブルの上に置いていた私の手を掴むと言った。 「リリア様、何も今すぐ答えを出す必要はございません。とりあえず婚約して・・・時期を見て、婚約破棄でもいいのです。私にもチャンスを頂けませんか?私はリリア様の事をほとんど存じ上げませんが、リリア様も私のことを知らない・・・お互いを知る良い機会だと思うのです」 (お互いをよく知ったら、そのまま結婚なのでは?) 「では婚約して・・・折を見て、こちらから婚約破棄でも構いませんね?」 「その前に、チャンスをください・・・様々な人がいるように、愛にもいろんな形があると思うんです。貴方の愛を全てくださいとは言いません・・・友達のような夫婦でも、戦友のような夫婦でも、1つの『愛の形』だと思うんです」 「・・・私は他人の気持ちを思いやれる人でないと、人間関係を築きたいとは思えません。自分の考えを押しつける人はキライです」 「ふふっ・・・また、キライって言いましたね。押しつけませんよ、提案です。貴方と私が、この世の中で生きていくための・・・貴方だって、変な人と結婚して他国へ連れ去られるとか嫌でしょう?・・・今までは、ストラウド様がいらっしゃいましたが、非力な貴方が他の人と同じように生きていけますか?『聖なる力』は誰にでも魅力的に受け止められるでしょうし、囲いたい人間は大勢いるでしょう」 「(おど)しですか?」 「いいえ・・・あくまでです」 「分かりました・・・私、貴方の提案を受け入れますわ」 「え?」 「いつでも婚約破棄して構わないのでしょう?・・・その代わり、婚約期間を3年にしてください。その間に・・・どうすれば自分や周りにとって最善かを考えます」 「いや、その・・・」 「構いませんね?」 「・・・はい。チャンスを与えてくださり、ありがとうございます」 (負けたわ・・・あれだけ必死に食い下がられたら、断れないじゃない。まあ、いいわ・・・隙があれば、何時(いつ)だって婚約破棄してやるんだから) 嬉しそうにしているサクフォン伯爵とは裏腹に、私は婚約破棄に向けて考えを巡らせていたのだった。
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!