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貴族館へ②
「いえ、あの・・・今度とか、なくて大丈夫です」
「・・・はい?」
「あの・・・正直に申しまして、やはり貴方のことは好きになれそうにないのです・・・好きな人に振り向いてもらえないツラさは私も、分かっているつもりです。だから・・・余計に結婚はすべきではないというか、何と言うべきか・・・」
サクフォン伯爵は、テーブルの上に置いていた私の手を掴むと言った。
「リリア様、何も今すぐ答えを出す必要はございません。とりあえず婚約して・・・時期を見て、婚約破棄でもいいのです。私にもチャンスを頂けませんか?私はリリア様の事をほとんど存じ上げませんが、リリア様も私のことを知らない・・・お互いを知る良い機会だと思うのです」
(お互いをよく知ったら、そのまま結婚なのでは?)
「では婚約して・・・折を見て、こちらから婚約破棄でも構いませんね?」
「その前に、チャンスをください・・・様々な人がいるように、愛にもいろんな形があると思うんです。貴方の愛を全てくださいとは言いません・・・友達のような夫婦でも、戦友のような夫婦でも、1つの『愛の形』だと思うんです」
「・・・私は他人の気持ちを思いやれる人でないと、人間関係を築きたいとは思えません。自分の考えを押しつける人はキライです」
「ふふっ・・・また、キライって言いましたね。押しつけませんよ、提案です。貴方と私が、この世の中で生きていくための・・・貴方だって、変な人と結婚して他国へ連れ去られるとか嫌でしょう?・・・今までは、ストラウド様がいらっしゃいましたが、非力な貴方が他の人と同じように生きていけますか?『聖なる力』は誰にでも魅力的に受け止められるでしょうし、囲いたい人間は大勢いるでしょう」
「脅しですか?」
「いいえ・・・あくまで提案です」
「分かりました・・・私、貴方の提案を受け入れますわ」
「え?」
「いつでも婚約破棄して構わないのでしょう?・・・その代わり、婚約期間を3年にしてください。その間に・・・どうすれば自分や周りにとって最善かを考えます」
「いや、その・・・」
「構いませんね?」
「・・・はい。チャンスを与えてくださり、ありがとうございます」
(負けたわ・・・あれだけ必死に食い下がられたら、断れないじゃない。まあ、いいわ・・・隙があれば、何時だって婚約破棄してやるんだから)
嬉しそうにしているサクフォン伯爵とは裏腹に、私は婚約破棄に向けて考えを巡らせていたのだった。
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