「たまご」になれない私と君の文学部生活

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 佐藤と名乗った彼は、私の隣で原稿を読み始める。自己評価の出来は85点だ。だから、読まれれば必ず高評価を貰えるに違いないと思っていた。 「よく書けてると思う。ただ......」 「ただ?」 「丘の上にある噂の大きな木を見に行ったら、ハリボテだった感じかな」 「ーー!」  その評価はある種、私が一番されたくなかった評価だ。 「何もなくて空っぽなんだ。伝えたいこともない。浅い感じ。人を救いたいとか笑わせたいとか作者の強いエゴがなくて、ただただ、ウケそうなシーンが繋ぎ合わせてある。”君、こういうの好きでしょ”って、押し付けられてる感じ」  思ってもみなかったところで己の軽薄さが露呈していく。ボロボロと剥がれていくのは、今まで自分を覆っていた虚勢の鎧だ。 「基本的に絵だって文章だって何をかいてもいい。何も表現しなくても良いし、それを責めることはお門違いだとも俺は思ってる。でも、君が狙ってる大賞はそういうものじゃないんじゃないかな」  何もを言い返せない。パクパクと金魚のように口を動かす私をほうって、佐藤君は綺麗に原稿の四隅を合わせて机に置いた。 「君の人生にもあるはずだよ。君を君たらしめる根幹のようなものが。俺はそれが読んでみたい」  最後に言われたこの言葉がどうにも頭から離れない。
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