「たまご」になれない私と君の文学部生活

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「君が、文学部の仲原ちえりさん?」 「うん」  たしか法学部の人だ。身長が低めで天然パーマで、身なりがいい。共通科目の講義で見たことがあるから、きっと同じ学年だろう。 「何か用?」 「ちょっと興味があって。俺は佐藤。日浦ゼミ、成績優秀じゃないと入れないんだってね。凄いね。何で入ったの? 何か研究したいとか?」 「先輩にオススメされて」  日浦ゼミに入ったのは、たまたま仲のいい先輩にお薦めされたからだ。先輩は入れ替わりに卒業してしまったけれど、大企業に羽ばたいていった先輩が勧めるのならそこそこに”良い”研究室なのだろう。 「よく図書館で勉強してるって聞いたし、偉いね」 (誰か知らないけど、私に興味がある人だ)  私は持っていた原稿の束をむける。初対面の人に頼むことではないけれど、不思議と彼になら見せても良い気がした。 「今は図書館大賞を狙ってるんだ。良かったら一番最初の読者になってくれる?」
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