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5月の雨上がりの夜は少し湿っぽさを含んだ暑さをしている。自転車で駆けたら風が出来て気持ちいいかもしれない。
「助かったよ。本当に苦手で」
「......日文に居るからにはお酒の付き合いから逃れられないって、先輩が」
彼は私の苦手を”飲み会が苦手”と解釈したらしい。ちなみに私が飲んだのはアルコールだったのだとか。私はまだ19歳なのに、向かいの20超えの子の飲み物を間違えて飲んでしまったみたいだ。
「あぁ、えっと。君は」
目が合わないぐらいの長い前髪に、細めの長身。飾らないパーカーを着た男子。同じ学科ならば名前が出てきそうなものなのに、出てこなかった。この状況で愛想笑いの一つでもして良さそうなのに、そういえば飲み会のときからずっと無表情だ。
「僕は緒方。君と同じ、文学部日本文学科2年日浦ゼミ生」
「緒方君ーー」
聞いたことがある。一年の頃からバイト三昧で、学科の集まりや飲み会に滅多に顔を出さない同級生が居るという。
(あ、仲間だ)
私はこのとき、安心してしまったのだ。
私以外にも「たまごでない者」が居る。この高い志を持たなければ生存を許されない日浦ゼミに、私以外にもハグレモノが。
その安心感は、私に彼の黒いパーカーを吐瀉物で染めさせた。
「オロロロロロロロロ......」
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