「たまご」になれない私と君の文学部生活

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**  再建されたばかりの図書館の書架は、古い時代の書物が多いにも関わらず、埃臭さを余り感じさせない。近代文学のコーナーを2人で巡ると、知らないタイトルの知らない著者の本ばかりが目に付いた。 「緒方君はレポート課題の”近代における愛”、何にするか決めてる?」 「まだ」 「そっか。私も」 「......。」 (会話が続かない)  図書館だから、という理由だけではなさそうだ。緒方君が私と同じハグレモノであるなら、こういったコミュニケーションの面が問題なのだと思う。だけど、私は諦めない。 「実は困ってるんだ。何にしようか全然思いつかなくて」 「尾崎紅葉の金色夜叉とか島崎藤村の初恋とか、題材は困らないと思うけど」 「......へぇ〜」  このへぇ〜は全く知らなかったときのへぇ〜だ。そんな作品、聞いたこともない。緒方君の口からスラスラと作品名が出て来ることも少し意外だった。
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