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「緒方君が前教えてくれた近代文学の入門書、わかりやすかったよ」
「それは良かった。あとはそこで興味を持った本について読んだら良い。そこから何を選ぶかは仲原さんの感性次第」
あれから数週間。
なんだかんだでゼミの前後に頼み込むと緒方君は図書館まで付き合ってくれた。幸いなことに、私も彼も友達が少ないようで誰からも邪魔されたりはしない。少し迷惑そうな顔はされなくはないけれど、ハッキリとは断られない。
(緒方君のおかげで、ゼミでも付いていけてる)
私はゼミでわからないところを緒方君に聞くことでなんとかやっていけていた。レポート課題も不可でもなく、可でもなく、良だった。
勿論、win-winな関係にするために、努力はしている。バイトでゼミの用事などをすっぽかしがちな緒方君の代わりに、私が用事を代行することでかろうじてこの関係は維持されている。
しかし、彼がたまに口にする”興味”というものは理解し難い。確かに、物語は好きだが、特定の誰かや時代に絞って何かを探求したいという気持ちにはやはりなれなかった。
これはやはり、私は何者かの「たまご」にはなれないという証左なのだろうか。
(この作者が私だったら誰かに研究されるよりも、私の作品を読んでもっと面白いものを書いてほしいと思う)
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