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「ほら、見てごらん」
クリフ様に言われて見下ろすと、小さな島に南国のリゾートホテルのような建物が見える。本館らしき建物の他にコテージらしきものがいくつも見える。プールもある。
まだ建設途中らしく、建設機材がいくつかあるがここからは作業員の姿は見えない。
「ここは?」
「竜の国の民の為にリゾート開発をしたのだ。ここにはどうにも娯楽が少ない。
楓の勤めていたシャボット社と契約してスパリゾートを建設している最中なんだ。実はここの運営を楓に任せてもいいかなと思っているのだけど、やってみないか」
「私が?」
驚きのあまり目が点になる。
「もちろん経営全部を任せるわけにはいかない。そこはダニングやその部下が主になるがスパの運営は楓の就職してからの目標だったのだろう?好きなように企画してダニング達と相談しながらやってみたらどうだ?
それがうまくいけば、地上の国でもスパリゾートを作ることも視野に入れている」
願ってもいない素敵な提案だけど。
「それ、経験も実績も積んでない私で大丈夫かな」
やりたい気持ちはあるのだけど、私にはなにぶん経験が足りない。
「知っての通りこの国は入浴の文化がない。メイドたちが言ってなかった?岩盤浴が楽しみだと。大浴場を楽しみにしている者もいるし、水着で楽しむ場所を作ってもいい。大まかなものはシャボット社と決めてしまったが細かい内装はこれからだから。楓が周りと相談しながらここを好きに造るといい」
あの日、これのせいで会社は大騒ぎだったんだと理解することができた。
ならば是非やってみたい。
「お願いします。やらせて下さい」
「ただ、一つ条件があるんだ。集中してもいいが、私と過ごす時間を忘れないようにすること。それだけは絶対だ」
「もちろんです。クリフ様こそ、私のこと忘れてお仕事に集中しすぎないで下さいね」
「もちろんだ」クリフ様は満足そうに顔をほころばせ私たちは指切りをした。
ヴィーがまるで馬のように大きく嘶いた。
ーーー私のことも忘れるなよーーー
「もちろんよ」そう言った私にクリフ様は少しだけ眉をしかめていた。
後で知ったのだが、
一時期、執務室の面々が死にそうに忙しいとバテていたのは、シャボット社などから買い付けた建設資材などを地上から天上界に運び込む為の転移魔方陣と魔力の手配に追われていたことが原因の1つらしい。
ここの存在を地上に知られずにこんな大型の施設を作るだなんてどんな無理やりだと思うけれど、竜の国の人たちの期待は大きくオープンを心待ちにしているらしいから執務室の面々の苦労も報われる日が来るだろう。
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