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ゆっくりと歩いていたものの長くてふわふわしたドレスの裾の扱いに慣れず、しかも慣れないハイヒールで裾を踏んでしまいよろけそうになりひやっとする。
危ない、危ない。
これ以上の失態は勘弁して欲しい。
「楓さま、ドレスの裾を前に蹴り出すようにして足を出すと歩きやすいですよ」
後ろに控えて付いてきてくれている侍女さんが教えてくれる。
「え、そうなの?」
蹴り出していいの?
「どうぞ、お試し下さいませ」
彼女の言うとおり足を前に蹴り出すと、ドレスの裾がぽわーんと前に出て裾を踏むことがなくなった。
おおっ、歩きやすい。
後ろにいる侍女さんに笑顔を見せると彼女も満足げに頷いてくれた。
格段に歩きやすくなった私は足取りが軽くなりさっきよりも注意深く周りを見るという余裕も生まれた。
この廊下は長いけれど、何故か人の気配はほとんど感じられない。
それに一部屋ずつがかなり大きく作られているのかドアの数も少ないのだ。
そう言えば、私が寝ていた部屋もかなり大きかった。
大きなベッドのあった部屋のほかにシャワー室と洗面所、トイレがあり他にも何かわからないドアが二つもあった。
「あの・・・ここはホテルですか?」
後ろを歩く侍女さんに聞いてみる。
「ここは宮殿の中でもクリフォード様のお住まいもある居住区域でございます。今から向かうのはお仕事をされる区域でございますよ」
なんだか笑われてしまった。
なんて立派なお屋敷なんだろうと思ったけど、宮殿ってことは城、お城か!
そういえば、壁には燭台があってずいぶんと雰囲気を出している。
お城ならあり得ると妙に納得してしまう。
でも、だとしたらクリフォード様って見た目通りのリアル王子様だったの?!
ならば我が国の政府の関係者がペコペコ頭を下げるのも納得がいく。
やっぱりとんでもない所に来てしまったらしい。
背筋が寒くなりゾッとする。やっぱり帰りたい。
突き当たりの階段を下りて行くと護衛らしき軍服姿の方がちらほらと見え、そのまましばらく大理石の床を進んでいくと、大きな扉が見えてきた。
扉の前で黒服の執事さま(仮)が立ち止まりニコリと笑顔で私を振り返る。
「楓さま。この先の広間にクリフォード様がいらっしゃいます。
本来でしたら別室でお話ししてもらうつもりでしたが、この時間帯はどうしても外せない予定だったもので、申し訳ございません。部屋の中には他の者たちもおりますがお気になさらずクリフォード様とお話し下さいませ」
うーん、他の者たちもいる予定ね。
だったらそんなに私との面会を急がなくてもと思うんだけど。
他の者たちっていうのはあの大柄な群青色の護衛さんとかもう一人の小柄な護衛さん、もしくは会社についてきていた茶髪の護衛さんだろうかなどとぼんやり考える。
この建物の中で見かけた人たちがこの黒服の執事さま(仮)と侍女さま、メイドさん2人の他は護衛の軍服を着た方々だけだったから。
私が軽く頷くと「どうぞ」とやはり扉の前にいた護衛さんの手で目の前のずいぶん立派な扉が開かれた。
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