魔女の呪いと女神の血

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ヤナーバルが私を突き落としたのはクリフ様にその叱責をされた帰り道だった。 あの後、ヤナーバルは地上に落とされた。 人間ではなくただのドブネズミとして暮らしているのだが、今後生き残れる可能性は低いだろう。あの場で死刑にされたほうがマシだと思うほど苦しい生活をしているのかもしれない。 クリス様を襲った侍女もヤナーバルの関係者だった。 アリアナ様の侍女としてマルドネス様のお宅に入り込み、侍女として知り得たマルドネス様の家の事情をヤナーバルに報告していたらしい。 もとはミーナ姫の乳母をしていたヤナーバルの愛人だった。 ミーナの乳母として雇用していたマルドネス様のお姉さまはよく働き貴族世界に詳しい彼女のことを信頼していたらしい。義父ヤナーバルの愛人であることも知らなかったのだとか。 でも乳母にミーナの教育を任せきりにし、我儘放題の彼女を放置しあろう事か王妃になるようそそのかしていたのだから何の関係もないとはいえない。 姉の紹介で来た有能な侍女をマルドネス様とアリアナ様は疑いを持たなかった。 侍女とヤナーバルが愛人関係にあったと知っているのはヤナーバルの細君だけでその細君も昨年病で亡くなっている。 そしてヤナーバルの一族だけれど、何らかの悪事に荷担していた者は全て投獄の上重い罰が下る。 その他の者たちも魔力を奪うことに決まった。 しかし、彼らは大きな貴族家でヘタにすべての権力まで奪うと、また逆恨みが生まれるし一族とはいえ関係のない者もいる。 だから一族を分断することにしたのだ。 一部は一見今まで通りこのままここで国のために働いてもらうが実情は飼い殺しと同等の扱いで死ぬまで監視の対象に。 残りの者たちは地上に落とすことが決まった。 希望者はクリフ様の経営する会社の一つで働くことができる。もちろんクリフ様の忠実な部下たちがいる会社だ。 実力があればそれ相応の富が得られる。 しかしかれらはもう竜の国には戻ることはできない。 「気位が高いだけのあ奴らは少し世間を知った方が良いのだ。地に足をつけ、額に汗をかき賃金を得て家族を養う。それが当たり前のことなのだがな、それが奴らには何もわかっていない」 「地上の、ですか?」 「そうだ。私の持つ会社の中でも一番労働が大変な所を選ぶとしようか。心配はいらない。秘書のダニングがうまく動いてくれる。彼は実に有能なんだ」 クリフ様は地上でたくさんの会社を経営している。 出入りしていた執務室で聞いた話では私の知る名前の企業もいくつかありどれもが優良企業と言われているものばかりだった。竜王のこの世界における影響力の大きさに驚いた。 ミーナ様はクリフ様のお姉さまのクリエーヌ様が嫁いだ地上の国に両親と共に落とされていた。 クリエーヌ様の臣下が常に目を光らせている中で翼も魔力も持たない庶民として暮らしている。召使を持たない生活に泣き叫んでいるらしいけれど、当面の衣食住は保証されているのだから贅沢だと言うものだ。 この先、支援金が打ち切られたら自分たちで稼いで生活しないといけないのだから。 家事すらできないのでは話にならない。いや、彼女の場合、着替え一つ自分でしたことがないのだからもっと初歩的なことから覚えないといけないだろうが。 今回のことで従兄弟のマルドネス様は王位継承権を放棄し、一臣下として竜王であるクリフ様に尽くすと約束してくれている。 これからはもうサボることは出来ないだろう。 今までの分も頑張って働いて欲しい。
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