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竜の国
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「ここ、どこ」
目が覚めたら天蓋付きのベッドの上だった、なんて想定外の事態に大いに狼狽した。
乗り換え移動するときには起こしてくれるって秘書さんが言ったのに。
ここが目的地だとするとあれから2回乗り換えしたはずなのに、ぐーぐーと寝続けていたのか、私は。
なんてことだ。
ふわふわのマットレスにふわふわの掛布団。
よいしょと体を起こすとタイミングよく「お目覚めですか」と女性が入ってくる。
天蓋から下がるレースの付いた薄い布の向こうに侍女服姿の女性がいた。
「申し訳ありません、図々しく眠ってしまっていて」
ぺこりと頭を下げた拍子に胸元を見てギョッとした。
なんと、着替えまでされていた。
シンプルなデザインの真っ白のナイトドレス。胸元と裾に小さな花の刺繍が入っていてとてもかわいらしい。っていやいやそうじゃなく。
下着は元のまま着けているけれど、これは大失態じゃないだろうか。
移動でも着替えでも目覚めないって・・・どれだけ深く眠っていたんだ、私。
「失礼いたします」と目の前の薄い布が開けられて侍女服の女性がベッドのそばに来た。
金色の髪と琥珀色の瞳が綺麗な若い女性だ。年齢は私より少し上くらいか。
「楓さま、ご気分はいかがですか?」
私を見つめるその視線に敵意や鋭さは全く感じられないどころかかなり柔らかい。
「体調は問題ないです。あの、それよりもここどこですか?私はどのくらい眠っていたのでしょうか。クリフォード様の秘書様にお会いできませんか?それと、着替え、あの、私が来ていた洋服はどこにありますか?クリフォード様は怒ってませんか?」
身を乗り出して矢継ぎ早に質問をすると、ふふふっと彼女は小さく笑い始めた。
「まずはお着替えを致しましょう、楓さま」
ベッドにワンピースが置かれ、彼女が私の前に手を差し出してくる。
ベッドから下りて着替えをしろということなのかなと判断して、差し出された手を断るのも何なので「ありがとうございます」とおとなしく手を取ってもらいベッドを降りた。
「え、えーっと、わたしの服は?」
ベッドに置かれたものはよく見るとずいぶんと高級そうでしかも布地が多い。
ワンピースなどというものではなくてこれはドレスというものじゃないだろうか。
「楓様のお召し物はこちらでお預かりしてクリーニングしておりますので、どうぞこちらにお召し替え下さいませ」
いやいやいやいや
何だろう、ピアノの発表会でもこんなドレスは着たことがない。
おとぎ話のお姫様みたいなふわふわな袖と裾。この部屋のアンティーク調のインテリアとは合っているけれど。
「・・・こちらの国では皆さんこのようなお洋服が常識なんでしょうか?」
「はい、もちろんでございます」
侍女さまはニコリと笑ってドレスに目線を向けてくる。
有無を言わさず・・・って感じでちょっと負けてしまう。
そもそもがなんかいろいろ負けてるんですよね。
ここに来る時は無理やりだったから私も仕方なく行くんですよなんて、ちょっと上から目線だった。
でも、移動中にぐーぐーと寝込んでしまって時点で相手に対して完全に礼を欠いている。
おまけに目覚めたら中世のお城みたいな雰囲気のあるお部屋の天蓋付きベッドで目覚めましたなんてどんなお伽話なんだか。
後で私を担いで運んでくださった方に謝罪をしなくては。重かっただろうなぁ。
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