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そして、この侍女服の女性、本当にお綺麗なんですよ。
私のあこがれの上司、シェリルさんを軽く凌いでおります。
はい、そうです、逆らい難い雰囲気に押し負けました。
「わかりました」仕方ないと私が頷くと
「お手伝いいたします」にこりと笑った彼女がパチンと指をはじくと待ち構えていたように二人のメイドさんらしき若い女性が勢いよく入ってきた。
私より若く妖精のようなかわいらしさであるのに、なぜか結構力が強い。
後はおわかりだろう・・・
私の「自分でやりますからー」の声は無視され3人がかりで剥かれ磨かれ着せられ整えられたのだ。
慣れない状況に瀕死に近い状態になった私は頭も体も追いつかずフラフラしそうになる。
メイドさん達は楽しげに私に話しかけながら動いていた。
彼女たちの口から途中で何度も「クリフォード様」の名前が出たんだけど、私が質問すると何故か笑顔ではぐらかすだけで答えてくれない。
どうやら質問に答えないように言われているらしい。
曰く、クリフォード様はここの1番偉い人だということ。
曰く、クリフォード様が自ら私の担当侍女とメイドを決めたこと。
曰く、クリフォード様は私を無理に起こさないよう指示していたとのこと。
曰く、このドレスはクリフォード様が選んでくれたもの。
正直なところ、彼女たちの楽しげな一方的な話は最後の方になると初めて着けるコルセットが苦しくてほとんど頭に残っていない。
初めての本格的コルセットプラスドレス着用体験にほぼノックアウトされた頃、私たちのいる部屋にノックの音がした。
「楓さまはこちらでお待ち下さいませ」
とさっとドアに向かった侍女さんが応対してくれる。
侍女さんはすぐに男性を連れて戻ってきた。
「楓さま、今からクリフォード様のところにご案内いたします」
上品な雰囲気の年配の男性が私に視線を合わせにこやかに微笑むと、恭しく頭を垂れた。
黒服に手袋、執事さんなのかしらと勝手に想像してしまう。
突然現れたドラマやアニメに登場する執事のイメージそのものの男性に興味をひかれる。
この人も侍女さんたちと同様にとても穏やかで好意的な態度だったことにホッとする。
「わかりました。よろしくお願いいたします」
お名前も役職もわからない黒服の執事さん(仮)に連れられ長い廊下に出るとドアの前に護衛の方が立っていることに気が付いた。
彼は私を見て頭を下げると私の背後に回り込んできた。
どうやら一緒に行ってくれるらしい。
「よろしくお願いいたします」と頭を下げると彼は驚いた顔をして「勿体ないお言葉です」と片手を胸に当て頭を下げられこちらが恐縮することになった。
クリフォード様が過ごす日常には護衛の方が付くのが当たり前なんだろうけど、私には馴染みがないから戸惑いを感じてしまうのは仕方ないはず。
しかし長い廊下。
ここってどんな大きな建物なんだろう。
西洋風のお城という雰囲気があちこちに漂う。
寝たまま運ばれてきたことが心底悔やまれる。
起きて自分の足で歩いてきたのならここがどのような所か確認できていたものを。
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