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開かれた扉の中にはーーー
信じられない世界があった。
そこはだだっ広い大広間だった。
そこには大勢の人がいて何かの懇親会のようなことをしていた。
まさかの状況に足が震える。
何なの、これ。
思わず泣きだしたくなったのに泣かなかった私を誰か褒めて欲しい。
私が想像していたものと全く違う。
場違い感が半端ない。ここにいて大丈夫なのかとどんどん不安になってくる。
クリフォード様の他に誰かがいたとしてももっと少人数で、ミーティングか何かをしているのだと思っていた。
こんな大きな集まりはこれっぽっちも想像していない。
それに、どの人もそれが制服らしきものを着こんでいて私のように華やかなドレスを纏っている者などは一人もいない。
軍服を着ている者、オフホワイトでスタンドカラーの長い上着を着ている者、紫色のフード付きローブを羽織っている者、ラウンドネックでワインレッドの長いワンピースのようなものを着ているものなど。
パッと見たところ男性の方が多いようだけれど、それぞれが何人かで歓談しているといった感じ。
どこかの政治団体や企業のパーティーのようなものなのか、本当にこの集まりの中に私が入っていいものか。
黒服の執事さま(仮)に先導され身体を縮めるようにしてこちらに気が付きチラチラとした人々の視線を感じる。
そんな視線を避けつつ会場の上座の方に歩いていくと、ある所に目が留まる。
クリフォード様だ。
黒地に金の刺繍がされていてひと際煌びやかな軍服を纏ったクリフォード様が金髪の秘書さんや群青色の護衛さんたちに囲まれ中央の立派な椅子に座っているのだ。
多分、世の中のイケメン全てが束になっても彼には敵わないだろうと思うほど。
クリフォード様、カッコいい。
こんな状況なのに胸がときめいてしまう。
会社で遠巻きに見ていた時より、社長室で抱きしめられた時より更に輝いて見えるのはなぜだろう。
今日着ている深紅の軍服があまりに似合いすぎているからかもしれない。
お顔がきりりと精悍で私の好みのタイプだなんてことは絶対に秘密だ。
不意にクリフォード様が顔を上げた。
パチンと音がしたんじゃないかと思うほどぴったりと彼と私の目が合った。
時が止まったかのように周りの音は聞こえず、人々も見えなくなった。
クリフォード様の口元がかすかに動いたように見える。
そしてクリフォード様が立ち上がり満面の笑みを見せた。
「楓、目覚めたか」
止まっていた時が戻り、私に向かって早足で駆け寄ってきたと思ったらいきなりぎゅっと抱きしめられていた。
ひゃあ
声にならない悲鳴を心の中であげる。
驚きすぎて声にならなかった。
「楓、会いたかった」
私の背中に腰にクリフォード様の腕が回されしっかりと抱え込まれてしまった。
クリフォード様の胸元に私の顔がくっつき、軍服越しに彼の体温とあの香りが襲ってくる。
前回より香りが濃くなっているんじゃないかな。
いい香り。
安心感と同時に本能がくすぐられるような身体の奥深い所がきゅんっとする感覚に自分自身で戸惑いを覚える。
何だろう、懐かしいような、切ないようないろいろな感情が入り混じるこの奇妙な感覚は。
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