襲撃

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刺されたところは痛い、本当に痛い。 声を出すのも本当は辛い。 でも、死ぬほどの傷じゃないのはわかってる。だから、ね、私は大丈夫だから。 でも、みるみるうちにクリフ様の表情が変わっていく。 怒りだ。 瞳が、彼の燃えるような赤い瞳が、黒い闇に覆われていく。 ダメ。 クリフ様、ダメよ。 彼が怒りを爆発させたらどんなことが起こるかわからない。彼の魔力は膨大だ。下手したら地上の国まで影響がある。 宮殿の床がカタカタと小さく揺れはじめ地響きがする。 ありったけの力でクリフ様の腕を揺すった。 「ダメよ、力を暴走させないで」 だが、クリフ様の瞳は目の前の私を通り越してその先を見ているようでどうしても私と視線が合わない。 「私は大丈夫、だいじょうぶだからっ。見て、私を見て!!こっちを向いて!」 大きくなる地鳴りに私は絶叫した。 「クリフォード!!」 ぱあんっと弾けるようにクリフ様の瞳の色が赤色に戻り、怒りに燃えた顔色も戻ってくる。 「楓」 ハッとしたように頭を数回振ると、私の傷に触れないように縦に抱きなおし立ち上がった。 カツカツと靴音を立てて応接室に入りぞっとソファーに私を横たえる。 「傷、診せて」 部屋に入ったと同時に魔法の結界から離れたせいか痛みが和らいでいる。それでもう既に彼が治療のための魔法をかけてくれているのだとわかる。 私の返事を待たずに、彼が私の着ていた魔法のローブを裂くと下から血で塗れたブラウスが現れる。 それを見たクリフが息をのむ気配が目を閉じていた私に伝わってきて再び「大丈夫よ」と声を出した。 クリフ様は何も言わず治療魔法をかけながら、私のブラウスを破り背中の傷を露出させていく。 再び、クリフ様が息をのむ気配がしたと思ったら背中にポツリポツリと温かいものが落ちてくる感触がした。 「クリフ、だから・・・大丈夫だって・・・言ったじゃないの」 私は振り返り、俯いて治療魔法を続ける彼の頭を抱きしめた。 「・・・なぜ、これが。楓、どうして私の鱗がー」 「・・・寒かったのよ」 おそらく涙をこぼしているであろう彼の頭をしっかりと胸に抱いて話しかける。 まだ息苦しさと痛みはあるけれど、傷は彼の魔法の効果で麻酔がかかったように次第に痛みよりも痺れ感の方が強くなってきていた。 「あなたの鱗を外したら・・・スースーして風邪を引きそうだったの。・・・だからここに来る時に・・・貼り付けてきたの。・・・正解だったわ」 正確には鱗はクリフ様が付けた時のように体と同化しているわけではない。 でも、外す時に強く念じて剥がれたのだからまた強く念じれば貼りつくのかと思って、鱗を元の場所に置いて懸命に念じたら絆創膏のようにくっついたのだ。 あのナイフが深く刺さらなかったのはこのクリフ様の鱗とリチャードさまから頂いたあの特別なローブのおかげだ。 あの時、ナイフはこの特殊なローブの上からちょうどクリフ様の鱗のを貼った部分に刺さるようにして私の身体に入ってきた。 おかげで肺に達することもなく浅い場所で済んだのだけど。 それでも、ぐさりと刃物が刺さったのだ。傷はついたし、痛くないはずがない。 それに息苦しさもある。 治療魔法も完全ではない。痛みを和らげ治癒を促進するもので、すぐに傷が無くなるわけではない。
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