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目に飛び込んできたのは大きな天蓋付きのベッド。
アンティーク調の細工は非常にセンスがいいもので、宮殿の客間にあった天蓋付きベッドよりも豪華さを感じる。
窓辺にあるのは貝殻モチーフの白いソファと猫足のローテーブル。
床にはワインレッドの気足の長い絨毯がひかれていてとてもセンスのいいお部屋だ。
「とりあえず横になっているんだ。今医者とオリエッタたちを呼ぼう」
ベッドに下ろされたものの綺麗なシルクのシーツに血がついてしまうと大変だと慌てて体を起こした。
「寝てろと言っているのに」
「いえ、綺麗なシーツが汚れちゃうと思って。血液汚れって落ちにくいから」
はぁっと大きく息を吐いてクリフ様は一瞬泣きそうな表情をしたあとで少し笑った。
「楓。魔法で落とすから問題ない」
ああそうでしたっけ。
私はおとなしく横になった。
痛みはいいのだけれど、実は息苦しさが取れていない。
クリフ様はすぐに戻ってきてベッドに腰を掛け私の頬を撫で始めた。
「楓、どうしてあそこに」
「だってあなたはいつも一方的で、・・・勝手なのよ。
だからきちんと言わないと気が済まなくて・・・ヴィーに頼んで宮殿に連れて来てもらったの。・・・あの時間なら執務室かと思って」
「そうじゃなくて、どうしてナイフの前に飛び出したのかってことだ」
ああ、なんだ。そっちか。
「だって、あの凶器、あれ”竜殺し”だったわ。・・・私だって知ってるの。ヘストンさんからもリチャード長官からも習ったもの。大事なことだから知っておいて欲しいって」
「アレを知っていたのか」
彼は驚いた顔をして何度も瞬きをした。
竜殺しはその名の通り竜を殺すためのナイフだ。
たとえ竜王でもあのナイフで殺すことができると言われている。
昔々、竜王と女神が出会い熱烈に愛しあい結婚をした。しかし竜王に恋をしたのは女神だけではなかった。
竜王の幼なじみであった魔女が嫉妬に狂い自分の血液から抽出した毒をナイフに塗り込んで作ったものだと言われている。
あの”竜殺し”とはナイフに練り込まれた毒を竜の体内に入れることによって作用させるものであり、基本的にそれで刺すことが致命傷になるわけではない。
もちろん、ナイフなんだから刺さる場所が悪かったり傷が深ければ危ないけど。
毒に関しては、竜の血が流れていない者には効果がないと言われているのだ。
「もしかしたら、ってことは考えなかったのか」
「そんな事これっぽっちも考える余裕なんてなかったわ。あなたが狙われたのよ。冗談じゃないわ」
私は唇を尖らせる。
「楓…それでも私はまた息が止まるかと思った・・・貴女を失くしたら俺はーーー」
顔を曇らせるクリフ様。その顔は苦悶に歪み泣いているようにも見える。
ごめんね、私はこのところあなたにそんな顔をさせてばかりだわ。
「私は死なないわ。・・・だっていつもあなたが助けてくれるもの。・・・そうでしょう?私の大切な番さん」
私は表情筋を総動員してニコリとほほ笑んだ。
「楓!」
みるみるうちにクリフ様の目が揺れる。
あまくとろとろに溶け出しそうな表情が色っぽい。私の頬を撫でていたその手が顎にかかり、私は目を閉じた・・・・・・
トントン、ドーン。
「えええ、な、何?」
唇が触れ合う前に大きな物音がして二人でドアを見た。
「楓さまっ!!」
「がえでざまぁあああーん」
悲鳴のような声がして女性たちが転がり込むように部屋に入ってきた。
・・・うん、確かにノックの音はしたかな。
でも、ノックと扉を開けるのがほぼ同時だと、ノックの意味はあまりないかもしれないよ、パメラさん。
ちょっといい雰囲気だった私たちは乱入してきた侍女二人とメイド二人に驚き気まずくお互いから目をそらした。
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