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「楓さま、先日も今もこんな危険な目に。なんておいたわしい」
「ああ、お会いしたくて堪りませんでした。よくぞご無事でっ」
「ああーん、がえでざまっ。うえーーん」
「かえでさまー。もうどっか行っちゃいやですぅー。ええーん」
女性たちはベッドに駆け寄ってきた。
メイド二人はベッド脇の絨毯の上に座り込み泣き出している。
侍女さんたちはメイドさんたちより冷静かなと思ったけど、そうでもないらしい。
私に寄り添う竜王さまであり主人のクリフ様を邪魔だとばかりにぐいぐいと押しのけようとしているからだ。
「おい、こら、やめろ。私はここを退く気はない」
「クリフォード様、ここはお任せ下さいまし。楓さまのお世話は私たちが。お着替えもございますし、何より早く医師にお診せしませんとっ」
見ればベッドの足元辺りでおろおろと所在なさげにしている白衣の男性がいる。
そういえば、まだ医師の診察を受けていないことに気が付いた。
鱗のおかげで傷は浅かったしクリフ様の魔法で痛みが緩和されていたから一寸忘れていたっけ。
「クリフ様はあちらの始末をつけて来てください。その間に私も念のため医師の診察を受けて着替えもしておきますから」
私の言葉に女たちが一斉に頷いている。
「いや、だが・・・」と私のそばを離れたがらないクリフ様はまだ身体を動かそうとしない。
でも、いくら側近たちが優秀でも、竜王が狙われたのだ、ことはかなり重大だ。彼らも竜王の指示を待っているのではないだろうか。
「私はここで待っているから行って始末をつけてきてちょうだい。私も着替えがしたいし、少し休みたいわ」
敢えて優しく言ったつもりだったけれど、クリフ様は躊躇うような表情を浮かべたままで握ったままの手を強く握り直すだけでやはり動かない。
むむむ。
「クリフ!いい加減に早く行ってちょうだい。皆があなたを待っているわ。私はここで待っていると言っているでしょ!」
私がぴしりと言うと、クリフ様はびくりと身体を震わせ目を丸くした。
侍女二人がぷっと吹き出し、肩を震わせて笑い声を堪えている。
何とも言えない空気が部屋の中に漂い、クリフ様は渋々と言った感じで立ち上がった。
「なるべく急いで戻ってくる。君は無理しないで。わかった?ここを動かないこと」
「もちろんわかってるわ」
私は何度も頷いた。これ以上彼に心配をかけるわけにいかない。
クリフ様はそっと私の頬に手を置き額に口づけると、
「部屋の前の護衛を増やす。お前たちも楓から目を離さないように頼む」
と言い残してやっと出て行った。
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