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竜殺し
***
思ったより傷の治りが悪いことと、微熱がひかないことで私の離床はなかなか許されなかった。
「もう痛くないし、高熱になるわけじゃないのに」
3日目には文句を言っていた。
「せめて元通りの食欲になるまではおとなしくして下さいませ」
とオリエッタさんに言われると言い返せない。
なぜか、食欲も全くというほど戻って来ていないから。
クリフ様は時間を見つけては顔を見に来てくれる。
だけど、今回の事件の後始末に忙しいクリフ様となかなかゆっくりと話ができないことも私をイラつかせていた。
そこからさらに4日後。
あれから1週間が過ぎようとしているのに私はまだトイレ以外の歩行すら許されていなかった。
「ここに来てから今までの人生で生きてきたのとと同じくらい寝てる気がするわ」
ここに連れて来られた時と、ここから落とされた時、そして今と。ここに来てから体調不良で寝てばかり。
オリエッタさんはとてもつらそうな顔をした。
「そうかもしれませんね。私たちは楓さまに強いるだけで楓さまはいつもそれに耐えていらして・・・」
そしてついにぽろぽろと涙を流し始めてしまった。
「ああー、いやっ、その、そんなひどいことはないのよ。オリエッタさんったら泣かないで」
私はおろおろしてしまい、不用意な自分の発言を激しく後悔してオリエッタさんの背中をさする。
八つ当たりだよね、これ。バカな自由に動けなくてイライラして余分なことを言ってしまったと思う。
「ごめんね、もう少しごろごろしてるから。ね、ね」
慌てて宥めていると、コンコンっとノックの音がした。
オリエッタさんが慌てて涙をぬぐっているので
「ちょっと待っててちょうだい」と私が声を張り上げた。
「どうかされましたか?楓さま?」
ドアの向こうでパメラさんと護衛の焦った声がして、何だかこのまま入ってこられそうだなと思って
「何でもないからー、そう、着替え、着替えをしているのよっ」と更に声を張った。
オリエッタさんにウィンクすると、ぎこちない笑顔と「ありがとうございます。楓さま」と小さな声が返ってきた。
いつも通りの表情に戻ったオリエッタさんがドアを開けると、パメラさんが神妙な顔つきで待っていた。
「楓さま、マルドネス様とアリアナ様が面会を希望されていますがどういたしましょうか」
「それってクリフ様はご存知なの?」
「はい、楓さまの好きなようにと」
「なら安心ね。どうぞとお返事してちょうだい。
あ、私着替えた方がいい?応接間に移動?ええと、お茶とかお菓子とか何がいいの?私は下座に座るのよね?ああこの場合、下座ってどこ?」
あわあわとする私にパメラさんが呆れた声を出した。
「楓さま、落ち着いて下さい。お二人はお詫びにこちらにいらっしゃるのです。楓さまはこのままベッドにいて下さいませ」
あ、そうか。
シュンとした私にパメラさんが追い討ちをかける。
「楓さまは一度ならず二度も被害者なんですからねっ。その度に私たちもどんな思いをしたか。あの姫のことだって含めたら三度目ですよっ」
そういえば、パメラさんはあの姫様の暴言現場にいたものね。
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