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それからしばらくしてマルドネス様は何度も頭を下げ、アリアナ様は涙を浮かべて部屋を出て行った。
クリフ様も執務に戻り、私はまたベッドに横になった。
「あれでよかったのですか?」
パメラさんがしかめっ面で私に葛湯っぽい薬湯を勧めながら話しかける。
「だって、クリフ様も言ってたでしょ?あんまり関係ないんだもの、あのお二人は。それに、前にね、私に言ってくれたの。”私たちと親戚になろう”って。あれ、嘘じゃなかったと思う。私、マルドネス様のこと嫌いじゃない。
それに、クリフ様の血縁って少ないじゃない。減らすなんてとんでもないわ。私はクリフ様のお子様を産んであげられないんだし」
私がそう言うと、パメラさんは悲し気な表情を浮かべた。
「楓さま、お子様の件はーーー」
「うん、いいに、いいの。本当のことらしいし。竜王は特別なんでしょ。竜王だけは相手が竜とでないと子供ができないって」
実はその件に関してはもう何人かに確認を取っていた。
見舞いに来たヘストンさんやリチャードさま。それと、私の主治医。
皆が口を揃えてそう言っていた。
『残念ながら・・・』って。
それで、歴代の竜王の何人かは側室を設けていたらしい。
でも、私はやっぱり側室は嫌だなあ。
人工授精とか違う方法はとれないのかな。
まだその件に関してはクリフ様と話をしていないんだけど、いずれは伝えないといけない。
それきり黙った私にパメラさんも何も言わなかった。
結局、番のお披露目と決められた日にはまだ回復できそうになく延期となった。
それより竜王とその番が暗殺されそうになったことで国の中枢が混乱しているのだから、それも仕方ないと言えるだろう。
「楓さま、今夜はクリフォード様が早めにお顔を出してくださるそうですよ」
そう連絡があったのはマルドネス様が私の部屋にやってきた翌日である。
「え、本当?」
もういい加減クリフ様とゆっくり話がしたくて仕方がなかった。
離れの館で暮らしていた時は同じ寝室で寝起きしていたからお帰りを起きて待っていれば、お顔を見ることができたのだけれど今は違う。
私は療養中の身で、この部屋にベッドは1つだけ。
必然的にクリフ様の寝室は違うお部屋なのだ。
だから夜にここに帰って来るわけではない。
クリフ様は毎日時間を見つけては会いに来てくれていたけど、私の体調の確認をするともう執務室から呼び出しがかかってしまい、軽くハグして終わり。
今日こそは話がしたい。
「きいていらっしゃいますか、楓さま。ですから、夕食はしっかりとお召し上がりくださいね」
「あ、ハイ・・・」
そうなのだ、相変わらず食欲がなくて困っている。
傷口の方は塞がりつつあって腕を動かしても少し引き攣れるだけで魔石のせいで痛みはほとんどない。
なのに、作るのも食べるのも好きな私がどうしたんだろうって程に食べる気が起こらない。
これには医師もお手上げでクリフ様とリチャードさまの魔法も効果がないのだ。
精神的なものなんじゃないのかなとも思っているけど、それも確証がないのだから困ったものだ。
夕食を何とか飲み込んでぐったりとしていると、クリフ様が来てくれた。
「楓、どうした、やはり具合が悪いのか?」
「頑張って夕食を食べただけですから、ご心配なく」
えへへと力なく笑うと、クリフ様の眉間に深いしわが寄った。
「ムリするな、まだ食欲がないんだろう」
そうなんですけどね、食べないとみんなが心配するし。私も辛いところなんです。
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