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「今夜はゆっくりできますか?」
今夜こそは話がしたいと、私は早速切り出した。
「ああ、楓のおかげでマルドネスが真面目に仕事に来るようになったからな。今までの分を押し付けてきたよ」
「まあ。それはそれは」
二人で顔を見合わせて笑った。
もともと仕事が出来る方だったらしいからマルドネス様にはこれからたくさん働いていただくことにしよう。
「私も楓不足だった」
人払いしたクリフ様は私を自分の膝の上に座らせ抱きしめた。
いつでも私を惑わせ、安心させるクリフ様の不思議な香りが濃く香ってくる。
すぅーっと吸い込んで小さく息を吐きクリフ様にしがみついた。
厚手の上着を脱いだクリフ様はシンプルなシャツ姿になっていて、触れ合っている場所からはお互いの体温を感じとても心地がいい。しっくりと馴染むとはこんなことをいうのではないだろうか。
私、もう気持ちを吐き出してもいいのかな。
そろそろ限界にきている。
ちらりとクリフ様を見上げると、私の視線に気がついたクリフ様が嬉しそうな笑顔を見せる。
「おねだりかい?私の愛しい番」
甘い囁きに気分を良くした私の頬も緩んでしまう。
彼の胸に自分の顔を押し付けておねだりをすることにした。
「鱗、欲しい」
あの鱗はナイフで刺されて割れてしまうとその後乾燥したみたいになって壊れてしまった。
だからわたしの心はずっとスースーしている。
「欲しいのか?楓は嫌だったんじゃ?だから外したんだと思ったんだが」
「嫌じゃない。ごめんなさい。その話もしたかったの」
私が鱗を外したことにショックを受けた彼が起こした嵐を思い出す。彼にとってはそれほどの重大事件だったというわけだ。
あの日の事を話したいと言うとクリフ様の表情が一瞬で引き締まった。
ただ私たちはこの話を避けて通るわけにはいかないのだ。
「あの日、ミーナ様に言われたの。私が感じている恋心はクリフ様の鱗によって操作されたものだって。私それがショックだったし、私ももしかしたらそうかもなんて自信が無くなってしまって」
「そんな事をミーナが」
クリフ様の顔色が変わった。
みるみるうちに彼の周りの温度が下がり始め、冷たい風が流れ出してくるようだ。
「それに、昔からクリフ様とミーナ様は両想いだったのに私が割り込んだせいで王妃から側室になることが決まったって言うし、私には子どもができないし。
死にそうな目にあってわけがわからなくなって…一度鱗を外して考えてみようって決めて」
「それで、結果は?」
「クリフ様の背後にナイフが見えた時、自分のことよりクリフ様を失うことの方が嫌だと思ったの。--あとはもうわかるでしょ」
ふっと笑うと、クリフ様は困ったような泣き出しそうな顔をした。
「アイツに他には何を言われた?」
「あなたに愛してると言われたことがないんじゃないか、とかね。さすがにそれはショックだった。だって本当のことだったしね。番が大事とか、大切にするとかとは言われていたけど、クリフ様からの愛してるの言葉は一度もなかったもの」
私の言葉にクリフ様は難しい顔をして口を開きかける。
「待って、もう少し言わせて。--だから私ね、あなたからのカードを見た時は本当に嬉しかったの」
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