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鱗を左の鎖骨の少し下に当てると、クリフ様が手を当てて少し目を閉じた。
あの幸せな香りが強くなり、身体が温かくなる。次第に鱗が肌の中に沈むように密着したと思ったらもう肌の一部になっていた。
そうそう、この感じ、これだ。
私たちは視線を合わせて微笑み合った。
「クリフ様、外出の許可が下りたらまた一緒にブルーモーメントを見てくださいますか?」
「ああ、もちろんだ」
「早く楓の体調が戻るといいな」
「そうですね。あと一歩なんですけど」
なかなか回復しない自分の状態に私は深いため息をついた。
成人してから熱も出したことない丈夫な身体が自慢だったのに・・・。
翌朝からは離れにいたときのようにクリフ様と朝ごはんを食べることになった。
私たちの姿にパメラが涙ぐんでいる。
「またこのような幸せなお二人をみられるなんて」
「うん、うん。パメラにはとくに心配かけちゃったものね、ごめんね」
私のメニューはパン粥に野菜スープ、小さめのチーズオムレツとフルーツ。
やっぱり食欲はあまりない。
「楓さまの食べたがっているカレーというものを作ることができればいいのですが、どうにもスパイスが手に入らないですし、レシピもないし食べたことがないものは料理長も作れず・・・今あちこちで文献を探していますからもう少しお待ちください」
「うん、いいの。大丈夫。私もレシピとかわからないし、一昨日食べたいものを聞かれてふと思い出しただけだから」
すまなそうに頭を下げるパメラさんに気にしないように伝えるけど、このままだと料理長をはじめみんなを巻き込んでしまいそうだ。
すると、クリフ様も気になったらしい。
「カレーとは私も聞いたことがないが、どこの国の料理なんだ?」
「それが…よくわからないんです。母が作ってくれたものなんですけど、どこの国の料理なのかはよく知らなくて」
クリフ様は顎に手を置いて考える仕草をすると真っ直ぐ私を見つめた。
「楓のご両親なんだが、連絡が取れないと言っていたな?こちらでも地上の国々に問い合わせをして出入国記録を検索したのだが、現在どこの国にいるのか確認が取れないのだ。それがどういうことかわかるか?」
「あ、えっと。両親は二人とも医者なんです。以前、彼らはフラフラと放浪生活をしていると言いましたけど遊んでいるわけじゃなくて、世界中の無医村を巡っていたり、たまに祖国に帰っているみたいなのでそういう時は全く連絡が取れません」
「祖国?楓はキキリア国生まれだったはずだが、ご両親は違うのか?」
「はい。実は両親は”救国の旅人”でこの世界の人間ではないのです」
「なんと」
クリフ様の顔に驚愕の色が浮かんだ。
「ですが、私はこの国で生まれてこの国で育っていますので両親の祖国の記憶はありませんし、私は連れて行ってもらったこともなくて、他の世界のことは何も知りません」
「まさか楓のご両親が”救国の旅人”とは・・・・知らなかった。---そうか」
クリフ様の表情が明らかに変わった。
赤い瞳がきらりと輝き唇に微笑みが浮かぶ。
「楓、もしかしたら特効薬が見つかるかもしれない。私は出掛けてくるから戻るまでおとなしくしているんだぞ」
クリフ様は朝食もそこそこに私の頬にキスすると出て行ってしまった。侍従と護衛が慌てて後を追っていく。
残された私とパメラさん、エメやネリーはクリフ様の勢いにポカンとして見送った。
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