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クリフ様が戻ってきたのはもうすぐお昼になろうかという時間だった。
「楓、楓っ!」
驚く侍女と護衛を押し退けるように入ってくるところを見ると相当慌てている。
「クリフ様どうなさいました?」
問いかけながらクリフ様の後ろから続いて入って来た人たちの顔を見て驚いた。
「お父さん、お母さん、何でここに?」
そう、クリフ様の後ろには確かにうちの放浪癖のある両親がいた。
両親も慌てている様子で取るものもとりあえず来たという感じだろうか、父の髪が一部跳ねているし、母も慌てて支度をしてきたという感じだ。
「楓、話は後だ。まずこれを飲みなさい」
父親の懐から粉薬が出され、母親の荷物からは水筒が出てきた。
促されるままに口に含むといつもの苦い味が広がり舌が痺れる。
うぇっ、まずっ。
苦みに酸味を足して少々えぐみを足した感じだろうか。
とにかく恐ろしく不味い。
母親から受け取った水筒の水らしきもので洗い流すようにごくごくと飲み込んでいくと、やや痺れがおさまっていく。
これもなんだろう。ただの水じゃないらしく、薄めたサイダーのようなほのかな甘みと清涼感がある。
全部飲むように言われて口に残る苦みを取るように飲み干した。
「相変わらず不味い」
幼い頃から体調を崩すと飲まされていたこの粉薬。
市販されておらず、父が処方するのだけれどどこから手に入れているのか知らないが、自己免疫力を上げるとか、自己治癒力を上げ細胞を活性化すると聞かされていた。
確かに飲むと早く治るような気がするのだ。
でも、何度飲んでも慣れることがなく、毎回間違いなく不味い。
そのうち体調を崩すことが無くなって、ここ5年ほどはご無沙汰していたからなのか余計に不味い。ホントに不味い。
あまりの不味さに顔をしかめながら、
「で、どうしてここに?」
とクリフ様と両親に問いかけた。
久しぶりに会った娘が話しかけていると言うのにうちの両親は私の問いかけを無視して勝手に私の目の下を引っ張りまぶたを見たり脈を取ったりして診察している。
「この霊水で呪いは解除されるはずだけど、どのくらいで効果が出るのかしら」
「すぐにもーーと宮司様は仰っていたが、どうなのだろうな」
両親は私の診察をするだけで、私の問いに対する返事をしてくれない。
隣に立つクリフ様をちらりと見るが、やはり彼も私と両親の様子を窺っていて返事をする気はなさそうだ。
誰か返事をしてくれてもいいと思う。
おまけに”霊水”とか”呪い”とか聞き捨てならない単語があった。
しっかり教えてと口を開こうとしたら・・・何だかむずむずする。
主に耳と鼻と目が。
いやだ、こんな時に花粉症?
ブタクサのアレルギーは持っていたけど、なぜ急に今。
「オリエッタさん、ティッシュ下さい」
むずむずする鼻をこすりながらティッシュを受け取ると同時に「くしょん!」とくしゃみが飛び出した。
うん?
鼻と耳に違和感がーーーと思っていると、みるみるうちに涙があふれてこぼれだした。
その涙をぬぐってギョッとする。
「む、紫っ??」
何じゃこれはー
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