竜殺し

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「ヤダっ。お母さん、変な色の涙がっ」と言う間に今度は吐き気がこみ上げてくる。 悪いものを食べた記憶も拾い食いをした記憶もないのに、気持ち悪い。 「吐きそう・・・」と俯くと、隣にいる母からビニール袋を渡された。 ここに吐けと?衆人環視の中で嘔吐は嫌だなと思いつつ、母に背中をさすってもらっていると、お腹から何かがこみ上げてきて『それ』が口から飛び出した。 え? 何?今、ボールみたいなものがお腹から飛び出してこなかった? 吐いてしまえばすっきりしたもので、耳や目のかゆみも治まっている。涙も出てこない。 「おお!出たか」 「出たわね」 「これがーーーー」 三人は私が握っているビニール袋の中身に注目していた。 そこにはいかにも怪し気な物体、紫色のマーブル模様のゴルフボール大のぬめぬめと怪しく光る玉があった。 何なの、これ! 「これのせいで楓が苦しんでいたのか」 怒り心頭なクリフ様が後ろにいた誰かを呼んで紫色のボールを渡している。 受け取ったのは白いスタンドカラーの衣を着ているからこの国の神殿の神官だ。 「すぐに浄化します」 クリフ様が頷き、神官は私と両親に向かって跪き一礼すると、素早い動きで護衛騎士に周囲を囲まれるようにして部屋から出て行ってしまった。 呆気に取られているうちに話が進んでいるような気がする。 両親と神官とあの紫の玉。 母が私の肩にそっと手を置く。 「楓、大変だったわね。でも霊水も飲んだしもう大丈夫よ」 父はハアっと息を吐いた。 「竜王陛下に聞いたときは驚いたが、間に合ってよかった。もう呪いは解除されているはずだから安心しなさい」 呪い? さっきも気になったキーワード。 「呪いって何」 優しく微笑む母とどこかそわそわしながらクリフ様と私の顔を見比べるようにしている父の言っていることがわからない。 「ちゃんと説明して欲しいのだけど」 「いや、先に傷を診ようか」 「そうね、とにかく傷が先よね」 両親はまたもや私の訴えを受け流し、診察の準備をしはじめた。 「うおっほん。んんうーん、んんっ、んん」 父が母が私のブラウスに手をかけたところでわざとらしい咳払いをはじめた。 「なに?お父さん風邪?」 母は父を振り向きもせず、私のブラウスをめくろうとする。 「あ、いや、待て、待て、待て」 慌てた様子で父が母の手を止めると、私の顔をちらりと見てからクリフ様に視線を合わせた。 私の傍らには私の手を握っているクリフ様がいる。 「陛下、娘の診察をしますので」 で?とクリフ様は早くしろとばかりに顎をしゃくる。 それを見た父の口がへの字になりやっとああ、それか、と思う母と私と侍女さん。 そして、もう今さらだよと思う私と侍女さん。 父はクリフ様の前で私の肌を見せることに抵抗があるのだろうが、治療魔法もガーゼの取り換えも医師を差し置いて毎日クリフ様がしていたから、ホントに今さらなのだ。 宮殿の医師も苦笑いしていたもの。 ちなみに護衛をしてくれる方は退室してドアの外に控えてくれる。 チラッと父の顔を見て、ごめんねと目で訴え自分からブラウスの肩口をはらりと広げた。 「ハイ、早く診て」 ああ、ちょっと父がかわいそうだが仕方ない。 父も眉を八の字にしてクリフ様を見ていたけれど、私の傷口を目にするとすぐに医者の顔つきに変わった。 傷自体はほぼ塞がっているのじゃないかと思う。 私からは見えないし、わざわざ鏡で見ることもないので、クリフ様から聞いただけだけど。
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