魔女の呪いと女神の血

5/11
533人が本棚に入れています
本棚に追加
/106ページ
それにしてもーーーと母が大きくため息をついた。 「ジャニアルス国に戻って医薬品の補充をしていたら竜王陛下が私たちを探していると神社の神職さまが血相を変えて家に来たから、本当に驚いたわ。この世界に派遣された私たちだって竜の国のことは何も知らないし」 「そうだぞ。しかも直々に私たちの家にお越しになるし。呪いの話をされた時には気が遠くなりそうだったんだ。 いくらこちらの世界に馴染むために幼い頃から代々継承されているピュリラ様の薬を飲んでたとはいえ、女神の血だけは消すことはできない。呪いを受けて急に死ぬことはなくてもじわじわと長い年月をかけて体力と気力を奪われていたと思うとゾッとするよ」 代わる代わる話す両親の顔色はよくない。二人とも何だか急に年を取ったみたいに見えるのは気のせいではないと思う。 「でも、神職さまから神社でピュリラ様のお力で湧いた泉の霊水を与えれば呪いから解放されるって聞いて。急いで霊水を頂いてこちらに連れて来てもらったのよ。本当に心臓が縮み上がったわ」 「やったことに後悔はないけど、心配かけてごめんね」 両親に向かって私は深々と頭を下げた。 「まあ、あなたに悪気はなかったんだし、身体が勝手に動いたんでしょうけど、ね」 母は少し笑ってくれたけれど、父は無言で眉間にしわを寄せた。 「竜王陛下」 硬い表情の父はクリフ様に向き直り膝の上のこぶしを握り締めた。 「天上界の出来事に異世界人の私が口を出すことは本来なら許されないのでしょうが、私の娘が巻き込まれている以上、聞いておきたいことがございます」 クリフ様が深く頷くのを見ると 「娘が女神の血を引くものだったとあの魔女の一族の末裔が知ったらまた何か起こるのではありませんか。それに誇り高い竜族の中には他にも純血種に拘る者がいるのではありませんか? この国に娘を置いていくのは不安で仕方ありません」 父親らしい意見に私も言葉を飲み込んでしまった。 「楓の父上の心配もわかる。ーーー今回の事件は私の父の弟である前王弟の長女の舅ヤナーバルが孫娘を王妃にしてこの国の権力を得る策略が失敗したことに起因している。 首謀者のヤナーバルは既に処分したが、それに恨みを持っていた愛人がいたとは知らなかった。私の調べが足りなかったのは否定できない。そのせいで楓は傷を負ってしまったのだしな」 私に対するミーナ姫の暴言をきっかけにクリフ様はヤナーバルを呼び出し、ミーナの件だけでなく彼と彼の一族の不正までも暴いて叱責した。 おまけにヤナーバルは陰で領地の民に重い税を課したり税収をピンハネしたりしていた。それより人道的に酷いこともしていたと聞くが実に巧妙な手口でなかなか証拠をつかむのが大変だったようだ。
/106ページ

最初のコメントを投稿しよう!