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「おはよう」 休日の朝、少しだけ遅めに目覚めた私は、窓辺に向かって声をかけ、のろのろと両親のいる階下に向かった。 キッチンからは朝食の支度をしている音が聞こえてきた。同時に何かを焼いている音と匂いもした。それと共に 「助けて」 「神様助けて」 他の音にかき消されそうな程小さいけれど、私の耳にはハッキリと助けを求める声が聞こえた。 これは…あのこたちの声だ! 今日の朝食はまた卵料理なの!?卵焼き?目玉焼き?スクランブルエッグ?どれか分からないけど、どうか間に合って!私にあのこたちを助けさせて! 私は慌てて、キッチンにいる母に駆け寄り、驚く母の手からボウルを奪い取った。手に取ったボウルの中には、まだ卵液が残っていたけれど、フライパンには既に仕上がる寸前の卵焼きが… うっ…… 「視て」しまったその瞬間、吐き気が込み上げてきたけれど、ぐっと堪えて、奪い取ったボウルを手に、私はキッチンを飛び出した。 「またなの?そんなの持っていって何するつもりなの!」 呆れた母の声を背中に受けたけど、振り返る事も返事もせずに、無心に自分の部屋へと 階段を駆け上がった。 一刻も早く救い出さなくちゃ。 もう何度か同じ事を繰り返しているので、母も諦めて追いかけてきてボウルを奪い返したり、叱ったりという事はしなくなった。以前はそんな母の邪魔が入ったりして、救えるはずのあのこたちを救えなかったことも多かった。 そんな事が繰り返される度に、私は自分の無力さに泣き続けて、塞ぎ込むこともあった。 でも、気が付いた。 「視える」からといって、全てのあのこたちを救える訳ではないのだと。 そんなのは思い上がりだ。 救える時が来たら、その時は全力で助けようと。たとえ好奇の目で見られたとしても。そう考えを変えた。 だからこそ、今手にしているこのボウルの中のあのこたちは、絶対に助ける。
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