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昨日は、久しぶりに会社の人達と飲み会したの。
A駅は、お姉ちゃんもよく行く?……そうだよね、じゃあ細かい説明する必要もないか。あたしの会社の最寄り駅なんだけど、あそこって超便利なんだよね。
大学も近かったから学校帰りに寄ることあったんだけどさ、今はなんといってもお酒が飲める年だし。あたしも会社の仲間もお酒が好きな人が多いから、コロナも収まってきたしそろそろ飲みに行こうかーって話になったわけ。
駅チカの居酒屋が結構種類が多いもんだからさ、どの店に行くかで意見別れちゃって。いい年した大人十二人くらいで一斉に、大規模じゃんけん大会になっちゃったわけたけど……ってその話はいいか。
結局、行くのは「ヒライザカ」になって。丁度あたしの隣に座った先輩と、ほとんどずーっと喋ってたの。お互い早々に酔っぱらってたけど。あ、男の先輩だけどセクハラされたとかそんなんじゃないから安心してね?そこそこイケメンだし、彼女いるんじゃないかなーってあたしは思ってるから、こっちも狙わないようにしてるし。
その先輩、あたし達より二つ上で、結構有名な大学の卒業生らしいんだけど。オカルトサークルみたいなところに所属してて、ホラーな話をたくさん調べてたって言うのね。
で、その手の話をちょっとだけ教えてくれたの。
『学校帰りとか、会社の帰りとか。特に用事もないんだけど、寄り道して帰りたいなーって思う時ない?どっかのお店に寄っていこうじゃなくて、わざといつもと違う道を通って帰りたいなーみたいな』
何か理由があるわけじゃなくてさ、と先輩。
『家族と喧嘩して気まずいから、遠回りして帰りたくない。家の仕事がやりたくないから、時間を先延ばしにしたくて帰りたくない。それなら寄り道の理由もわかる。でも……本当にそうじゃなくて、ただなんのなーく遠回りしたいな、みたいな。いつも通らない薄暗い道が妙に魅力的に見えたり、ぼんやり歩いていたらいつの間にかいつもとは違う道を歩いていたり。……こういう時は注意した方がいいんだって。誘われてるかもしれないからね』
『誘われてるって、何に?』
『それがよくわからないんだよ。神隠しが起きる前触れだとも言われてるし、ちょっとした悪戯妖怪の仕業ってこともある。何が起きるのかわからないし、何も起きないかもしれない。でも……そういう時って無意識で無自覚なものだから、寄り道の欲求に抗うのが難しいんだ。だから、誘ってくる何かにどんどん引き寄せられるられてしまうっていうね』
あははは、と笑う先輩はかなり顔が赤かった。確実に酔っ払っていたんだろうなと思う。
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