よりみち、よりみち。

3/5
前へ
/5ページ
次へ
 とってもぼんやりした話、でしょ?はっきり言ってあたしも全然、怖いとか思わなかったの。むしろ、いつ先輩の手のグラスが滑り落ちて大惨事になるか、の方がハラハラしてたくらい。  何が起きるかわからないし、正体もわからないけど何かに誘われてるのかも?とか言われても。  怖いことが起きる保証もないんじゃ、怖がりようもないよね。  それに、無意識で起きることなら誰にも対策しようがないでしょ? 『無意識にそうしていた、って気付いたところで引き返すのか唯一の対抗策。でも、人間ってさ、勿体無い精神が働く生き物だからそれが厄介なワケ。さっかくここまで来たのに引き返すのが勿体無い、とか思っちゃうんだ。で、好奇心の魔物ってものもあるもんだから抗えない。このまま進んだらどうなるんだろう、ってどんどん先に行っちゃったりもする。本格的にヤバいと思ってからじゃ遅いのになー』  あたしの訝しげな視線に気づいているのかいないのか。  先輩はウイスキーをガブガブ飲みながら、話をこう言って締めたの。 『ただ、昔から親が“寄り道しないで帰りなさい”って言うのは、こういう理由もあるって言われてるんだよ。邪念に惑わされず、余計な道を通らずに帰れって。でないと、自分の本当の帰り道を見失って迷子になっちまうんだーって。……まあだから、お前も気をつけろって話。もちろん、俺もな。こんな感じで酔っ払って気持ちよーくなってるとさあ、ついつい余計な考え起こしたりするもんだしさー!あっはっはっはっは!』  どうやら、先輩は酔ってる自覚は一応あったみたい。その後もビールを追加で頼んで、最後はすっかり机に突っ伏して寝ちゃってたけど。ほんと、最初に飲み放題のお金を徴収しておいて良かったーってかんじ?  ……先輩から聞いたのはこれだけ。  でも、あたしは興味が湧いちゃったんだよね。寄り道をしたら、何かが起こるかもしれないっていうの?別に何も起こらなくても気分転換になるし。  まあ、あたしもお察しの通り、かなーり酔っていたからなわけですが。  い、言っておくけどトイレで吐いたりとかしてないし!駅のベンチで寝たりもしてないんだからね!?
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加