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目の前を突如、視界の隅から顕れた車が横切り――慶吾が、くの字に折れながらブロック塀に潰され消えていく。
「――イヤァアアアッ!……はぁ、はぁ……」
ドクドクという心臓の鼓動に合わせ、視界が揺れる。
ハァハァと荒い息で辺りを見渡すと……ここは、私の部屋?
「ぁ……。そっか、座ったまま寝落ちしちゃったのか……」
冷や汗を腕で拭いながら、自室の床へ座っていることに気が付いた。
「とんでもない悪夢……。慶吾が、潰されていく場面なんて……。慶吾ぉ……」
体育座りしたまま、膝の間に顔を埋める。折角の慶吾の夢なのに、あんな場面なんて……。
他にもっと、夢に見たい思い出はあるのに。あの衝撃の方が上回って、夢に見るのなんて嫌だ。
そうしている間に、段々と目が覚めて状況を理解してくる。
昨夜は警察から解放された後、現実を受けいれられず、自室の床に座りこんでいたのだ。
父は仕事後に呼び出されて疲れていたのか、家に着くなりで眠りについた。
特に父から慰められたり、何があったのかと聞かれることもなかった。
自分は本当に、ここにいるのか。
そんな疑問すら抱く。
そうして自室で呆然としているうちに眠ってしまったんだ。
「学校……行かなきゃ」
慶吾が亡くなった翌日なのに学校なんてとは思うけど、サボることは出来ない。
本当は行きたくないけど、一年生二学期の始業式からサボりなんてしたら、学校から父親に連絡がいくから。
支度をしようと自室を出て――リビング兼、父の寝室を見る。
「……ここ、慶吾が座ってた場所。慶吾がいた部屋……。あんなに狭く感じてたのに、今はすごい大きく感じる……」
部屋には誰もいない。
天井まで届きそうな長身の慶吾も、父も。
狭いはずの部屋が、妙に広く感じるのは、一人ぼっちだからだ。
「……ここで一緒に笑って、ご飯を食べてたのに」
あの時の、楽しい時間がふっと視界に浮かび――消えていく。
「もう、未来では……あんな幸せを二度と感じられないよ。ごめん、ごめんね慶吾……。私が無理にご飯を食べようって引き留めたから。私が、私が慶吾を殺した……」
この部屋にはもう、辛い過去へと変化した思い出が詰まりすぎている。
私は部屋にこれ以上いたくないと、急ぎ学校へ向かう。
慶吾のいない、私を責めてくれる人だけがいる学校へ――。
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