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「イヤァアアア! 慶吾ッ! 私を置いて逝かないで!」
車と崩れた塀を、狂ったかのような勢いで掻き分けていく。
既に手は傷だらけで、ドクドクと血が流れている。――そう、この広がる血はきっと、慶吾のものじゃない。私から流れ出た血だっ! だから慶吾は、ぐちゃぐちゃになんかなってない、まだ生きてる!
「――君、ここから先は見ちゃダメだ! おい、誰か引き剥がすのを手伝ってくれ!」
「離してッ離してぇえええッ! お願い、お願いします! 誰か、慶吾を助けてぇえええッ!」
必死に慶吾を助けようと暴れる私を、数人の大人が引き剥がしていく。
「ぃや……。いやぁあああッ!」
どれだけ暴れても、大人たちは離してくれなくて――気が付けば、警察が来て青いシートで囲っていた。
慶吾はどうなったのかと聞いても、何も教えてもらえない。
私は駆けつけてきた救急車に乗ることも許されない。
青いシートに隠された、慶吾らしき人が救急車に運ばれていくのを見て暴れるだけ。
パトカーに乗せられ、警察署で状況の聴取をされていると、父が迎えにきた。
時刻はいつの間にか深夜になっており、案内されて警察署から外に出る。
雲一つない空から、星が地上を見下ろすように光っていた。
「お大事にしてください。……後、まぁ。君と一緒にいた男性のことなんだけどね……」
「慶吾がどうなったか、わかったんですか!?」
「これは、いずれ伝わることだからね……。いいかい、心を強く持ってね?」
そう前置きをして、警察官は――。
「本件は、自動車運転過失致死疑いとして捜査していくことになった」
「……ぇ?」
何を言っているのか、よくわからない。
警察官は、困ったように頭を掻き――。
「つまり、その……。残念だが……ね。君と一緒にいた男性――吉見慶吾くんは、病院で死亡が確認された」
「慶吾が……死んだ?」
「即死だったらしい。……苦しんだ跡は、なかったそうだよ。慰めにもならないだろうけど……」
「慶吾が、死んだ?……ぇ?」
私は呆然として――その場にへたり込んでしまう。
押しても引いても動けない私に、父は仕方なしとタクシーを呼んでくれる。
そうして、アパートの自室に座り――慶吾が死んだなんて信じられないと、虚空を見つめていた。
頭の中には、慶吾と出会った四月。
そして今までの出来事が、紙芝居のように次々と流れていく。
部屋に差し込む朝陽が眩しく、思わず瞬きをしてハッとした。
「ぁ……。あれから……ずっと、瞬きしてなかった? そっか、ずっと泣いてて……瞬きすら要らなかったんだ……」
一晩中、目が乾く暇もないぐらい、自分の目から涙が流れ続けていたと知った。
慶吾へ向けて書いたメッセージは、未だに既読にならない。
もう二度と、既読になることはない。
そう理解はしていても――諦められない。
「慶吾……。会いたいよ。まだ、好きって伝えてないじゃん……。死なないでよぉ……」
その願いが聞き届けられることはなかった――。
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