出会いは迷路真っ只中

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彼女と出会ったのは、中学生の夏休み中に家族旅行で行った遊園地だった。   ※ ただ今遊園地にある巨大迷路ゾーンを絶賛徘徊中。   僕は迷路が苦手で、何度も同じルートを行ったり来たり……。 同じタイミングで迷路のスタートラインに立った女の子。彼女も僕と同じように迷路が苦手らしく、彼女との遭遇は何度も繰り返された。 その度に「また会えたね」そうやって言う彼女が可愛くて、僕はなんだか楽しくなって、迷路のゴールよりも"彼女との遭遇"を目指すようになってしまっていた。 迷路内であまりにも遭遇を繰り返すものだから、いつのまにか彼女と手を繋いで一緒に行動するようになっていて、散々二人して迷ったあげく、それでも最後は手をつないだまま見事に、ゴーーール!!ギブアップせずに済んだ。迷った分達成感が一潮だったのか、彼女は何度も飛び上がって喜んでいる。でも僕は内心、彼女と手をつないでずっと迷っていたかったんだ。だってゴールしてしまうとそれが終わってしまうんだから……。 参加が子供限定の迷路アトラクションだったから、ゴール地点には互いの親が待っていた。あまりにも僕らが意気投合してるから、赤の他人だった親同士も連絡先を交換するような展開にまでなって……。だけど、お互いに遠方から旅行中の遊園地だったので、一旦それぞれ別れることになった。 ※ それから彼女とは再会できぬまま何年かの歳月が流れ、僕はもう大学生になろうとしていた。親同士が連絡先を交換していたから、連絡を取れば会うことは叶ったかもしれなかったけど、なかなかそこまでする勇気が出なかったのだ。そうして大人になるに連れて人生という迷路はより複雑化し混迷を深めていた。将来どの道に進むべきか決めなくてはいけない時期が段々と迫ってくるようで、未だにはっきりとしない僕にとっては人生に対する期待感よりも憂鬱感の方が幅をきかせていた。そんな"人生迷路"を行ったり来たりしているといつも、彼女と手をつないで迷ったあの遊園地の迷路のことが思い出され、隣にいないという寂しさに苛まれるのだった。そうして結局大学の進路もほとんど惰性で決めることになった。 大きな不安を抱え迎えた入学式。桜舞い散る中、晴れ姿に身を包み大学へと向かう。たくさんの入学生がぞろぞろと歩く中、それ以上にたくさんの先輩方がサークルの勧誘をしてくる。それを避けるように歩いていると、 「迷路サークルです!」 そう言ってサークルのビラを突然僕に渡してくる女性がいた。一目見てわかった。それは紛れもなくあの彼女だったのだ。遠方に住んでいたはずの彼女がまさか同じ大学に入っていたなんて。そして彼女は一年先輩のようだった。彼女も僕のことを覚えてくれていたようで、僕と知った上で声をかけてくれたようだった。 「また会えたね!」その後言った彼女のその言葉は、中学生の頃遊園地の迷路で聞いたあのトーンと何ら変わりない。嬉々とした表情も当時の面影をふんだんに残していた。 「これはやっぱり初恋だったんだ」そう確信した瞬間だった。 もちろん僕はそのまま"迷路サークル"なるものに入部した。謎のサークル名だったが、その活動内容なんてどうでもよかった。彼女がいればもうそれだけであとのことはどうでも。そして彼女とは自然と付き合うことになった。 これから人生という迷路にどんなに迷おうとも、彼女が「また会えたね!」と何度も言ってくれるだろう。やがてゴールを迎えるその日まで、互いの手を取り合って……。 【完】
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