ロードスターは恋をする

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あの時は、デザイナーの人から預かっているのだろうかとか、そんな風に思ったのを覚えている。  だがnaturallyのデザイナーは柊吾自身だった。  指輪にピアス、バングル……数々のアクセサリーたちが柊吾から生まれたのだと思うと、より一層宝物のように思える。 「夏樹」 「わっ」  どれくらい見入っていただろうか。  背後から柊吾に抱きしめられてつい驚いてしまった。  足音に全く気がつかなかった。 「隣にいないから夢だったかと思って焦った」 「夢じゃないですよ。夢みたいに幸せですけど」 「ん、俺も。デザイン画見てたのか?」 「あ、はい。勝手にすみません。すげーかっこいいっすね、これ全部柊吾さんが描いたんすよね」 「うん」 「すげー……あの、柊吾さん」 「ん?」  デザイン画たちには全て、コンセプトだとか表現したいものが文字でも書きこまれている。  それらを見ていると、ひとつの欲求が夏樹の中に芽生えていた。 「昨日もらったこの指輪も、こういうデザイン画ってあるんすか?」 「うん、ある」 「っ、見たい」 「分かった。待ってて」  すぐに頷いてくれた柊吾は、夏樹を抱えてチェアに腰を下ろす。  昨日のリュックを開け、ふにゃくまをデスクに丁寧に置き、それから出てきたのは小ぶりなスケッチブックだ。  開かれたページには、夏樹の手に光る指輪とそっくりのデザインが描かれている。  左上にはタイトルのように“Natsuki”と記され、指輪のねじれた部分は“N”を表現していることが記されている。 「ここんとこ、オレのイニシャルだったんだ……」 「うん」 「泣きそう」 「はは、泣いたら拭いたげるし、どうぞ」 「うう……これ、いつデザインしたんすか」 「工房に行く電車の中だな。何回も描き直した」  柊吾の言う通り、スケッチブックはところどころ黒くなっていて、何度も消しゴムをかけては描いたのだとよく分かった。  イラストの部分を食い入るように見つめ、次に右下のメモの部分に目を向ける。  “lodestar”と書いて、丸で囲ってある。
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