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柊吾の腕の中で振り返り、両肩を掴んで前のめりになると、柊吾は薄らと頬を染め夏樹を膝から下ろしてしまった。
ざっくりと編まれたカーディガンを夏樹に羽織らせ、部屋から出てしまう。
「コーヒーでも飲むか。夏樹は? 紅茶にする?」
「オレも柊吾さんと同じやつ飲んでみたい……って柊吾さん! さっきの教えてよぉ!」
冷たい廊下につま先を躍らせながら、キッチンへ向かう恋人を追いかける。
コーヒーの淹れ方を教わるのは、今日はおあずけだ。
「恥ずかしいから言いたくないかも」
「いやいや無理無理! 教えてくれるまでオレ一生しつこくしますよ!?」
「マジか……んー。え、本当に聞きたい?」
「本当に聞きたい!」
「……夏樹が事務所に送った写真、あるじゃん」
「はい」
「naturallyのことで事務所行った時にたまたま見てさ」
「え!?」
「あ、naturallyのことでってのは、早川社長の出資でブランド立ち上げられたからさ。たまに経営のことで相談に行ったりしてて。
そんで、なんつうか……夏樹の写真にすげー惹かれて。この子いいな、って言ったら、じゃあ入れるって社長が即決してた」
「ええ~……オレ、腰抜けそう」
柊吾は紛うことなく夏樹にとって道しるべだ。
柊吾がいたから今の自分がある。
だがまさか、事務所への所属も柊吾が一役買っていた――憧れの男に見出されていた、なんて。
そんな運命みたいなことが起きていたとは、考えてもみなかった。
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