プロローグ

3/6
172人が本棚に入れています
本棚に追加
/134ページ
「あ、来た来た」 「へ……え!」 「キミ、南夏樹くん?」 「は、あ……え!? なんで!?」 「あは、おもしろ」  目の前の現実に、開いた口が塞がらない。  まさかの人物が突然現れて、自分の名前がその人の口から飛び出てくるなんて。  この状況で「はいそうです、どうもこんにちは」とすんなり答えられる人がいるのなら、是非お目にかかりたい。 「初めまして。俺は晴人(はると)」 「し、知ってます!」 「わお、ありがと。はい握手」 「ひえっ」 「ふーん……なるほど。確かにアイツの目に狂いはなさそうだな」  右から左から、夏樹より高いのにわざわざ背伸びしてまで上から、それからしゃがみこんで下からも。  挨拶も早々に素早い動きで夏樹を観察するその人――この事務所の看板である人気モデルの晴人はそうつぶやいた。  なるほどの意味も、“アイツ”が誰なのかも何も分からない。  言葉ひとつひとつの意味が、今の夏樹の頭ではちっともかみ砕けない。 「はいはい、こっち。中に入って」 「あっ、ふあい!」 「はは、ふあい」  晴人に手を引かれ、中へと足を踏み入れる。  事務所内はワンフロアで、デスクで仕事をしている人たちに会釈をしつつ奥へと進む。
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!