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「社長~。はい、新人くん。てことで、もう連れてっていい?」
「いいわけないだろ。初日なんだから伝えることが色々ある」
「だよね。じゃあ終わったら教えて~」
「初めまして、南夏樹くん。社長の早川です」
連れてこられたのは、社長のデスクの前だった。
歳は五十代くらいだろうか。
真っ直ぐに見つめられ、ピンと背筋が伸びる。
「はっ、初めまして! こ、この度は採用? 所属? を、あの、ありがとうございます!」
「はは、そんなに固くならないで。そっちに座ろうか。晴人、ちょっと端に寄りなさい」
「痛った! 暴力はんたーい」
「はいはい。南くん、そちらにどうぞ」
「はい! 失礼します!」
応接用なのだろう、向かい合わせに設置されたソファへと案内される。
そこに寝転がっていた晴人は、早川に軽く蹴られて座り直した。
「改めまして。早川モデルエージェンシーの社長、早川です」
「南夏樹です!」
「ちなみにこっちは私の甥ね」
「はい! え、そうなんですか?」
「そ~。叔父さんに誘われてモデル始めたんだけどさ。事務所と同じ名字だねっていちいち聞かれんの面倒だから、下の名前だけで活動してる」
「なるほど」
改めて晴人をマジマジと見つめてしまう。
夏樹より高い背丈は、プロフィールによれば185㎝。
年齢は五月で24歳、夏樹の五つ上だ。
スモーキーなブルーに染められた髪は整った顔立ちによく似合っていて、仕草のひとつひとつすら様になっている。
モデルになりたいと思い立ちこの事務所を選んだのは、晴人が所属しているからに他ならない。
彼ほどの人がいるのだから、しっかりした事務所だろうと窺えたのだ。
「南くん? これからの話だけどいいかな」
「あ、はい! お願いします!」
晴人に持っていかれていた夏樹の意識を、早川が呼び戻す。
慌てて姿勢を正し、膝の上に両手を揃えた。
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