プロローグ

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 細かいことは追々と前置かれつつ、仕事に関していくつか話が進む。  それからもうひとつ重要なことは、住まいの件だ。 「荷物は指定の住所に送ってくれた?」 「はい! 言われた通り、午前指定で送りました!」  所属の話と一緒に、住む場所も用意すると申し出てもらっていた。  他事務所の例は知らないが、こんなに有り難いことはない。  噛みしめながら頷くと、晴人がひらひらと手を挙げる。 「ちなみに、俺と一緒の家だよ。ルームシェアってやつ。これからよろしく」 「へ……え! そうなんすか!?」 「うん。もうひとりいるから、帰ったら紹介するね」  驚愕の事実に、口をあんぐりと開けてしまう。  あの晴人とルームシェアをすることになるなんて。  目を見開いている夏樹を晴人がくすっと笑って、それじゃあ行こうかと促されるままに立ち上がる。 「南くん」 「はい!」  早川に呼び止められ振り返ると、握手を求められた。  差し出された手を噛みしめるように両手で掴む。  晴人の叔父だとすんなり納得出来るほど、早川も綺麗な顔立ちをしている。 「君のことは、うちの人間……というわけじゃないんだけど、送ってくれた写真に目を留めた者がいてね」 「そう、なんすか?」 「ああ。実際に会ってみて、私も改めてすごくいいと思ったよ。これから期待してる」 「っ、ありがとうございます! オレ、頑張ります!」  そんなことを言ってもらえるなんて、と感激に涙が浮かぶ。  握っている手には、ぎゅっと力がこもる。  間違いなく、人生が大きく変わる瞬間を今生きている。  手を離せないでいると、はいはいそのへんで、と晴人に急かされた。  肩を組まれて事務所を出ながら、最後にもう一度振り返り頭を下げた。
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