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翌朝。
目を覚ました夏樹は、自分がどこにいるのか一瞬分からなかった。
勢いよく起き上がり、辺りを見渡す。
そうだ、ここは柊吾の部屋で、昨夜は柊吾と――そこまで思い出し、シーツを手繰り寄せ顔を埋める。
なんてことを言って、なんてことをしてしまったのか。
思い出せば思い出すほど血液が体を駆け回り、恥ずかしさに居た堪れなくなる。
叫び出したいのを必死に堪え、体を縮こめて。
けれど後悔だけは一ミリもない自分に、夏樹はひとつ深呼吸をする。
恋人との終わりを迎えたその日に、別の人に体をさらけ出した。
ふしだらだと自分でも思うけれど、幸せな時間だった。
柊吾はどうだろうか。
しなければよかったと悔いてはいないだろうか。
そう考えると居ても立っても居られず、ベッドから飛び降りる。
リビングへと駆けこむとそこには求めていた人の姿があった。
「椎名さん!」
「おう、おはよ」
「へへ、おはようっす」
「朝ごはん、食べるよな?」
「あ、はい。さすがにお腹空きました」
「そりゃよかった。ちょっと待ってて」
変わらない笑顔に安堵を覚える。
心配は無用のようだ。
そうだと分かれば今度は、照れくさい気持ちが生まれてくる。
それでも「はい」と返事をしてから、リビングに全ての荷物を置きっぱなしにしていたことに気づく。
今日はまだ熊本にいる予定だったから、バイトも入れていない。
片づけは後程取り掛かるとして、でもこれだけはと空港で買い物をした紙バッグを引き寄せる。
柊吾に渡したいものがあった。
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