まだ恋を知らない

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「椎名さん! お土産渡してもいいっすか?」 「土産? マジ? よくあんな状態で買ってこれたな」 「あー、はは。だって椎名さんに会いたい一心だったから、忘れようもないっすよ」  晴人に頼まれていた酒のつまみをソファ前のローテーブルに置き、柊吾用の土産を持ってキッチンへ戻る。  これっす! と勢いよくそれを見せると、柊吾は目を丸くした。 「え、それ?」 「ふにゃくまっす! 椎名さん、前にいいじゃんって言ってくれたけん、絶対これだーって思って。ちなみにオレの分もあります!」 「はは、マジか。ぬいぐるみのキーホルダー?」 「っす! オレはスマホにつけようと思ってます」 「夏樹はいいけど、俺がつけてたらさすがにおかしくない?」 「えー? 別に平気っすよ! ふにゃくま可愛いし!」 「俺に“可愛い”は似合う気がしないけど……でもありがとな」  そう言って柊吾はふにゃくまを受け取り、とりあえず、とパンツのポケットに仕舞ってくれた。  朝食が出来たようで、ダイニングのチェアに腰を下ろすとプレートが出てきた。  カットされたホットサンドからはハムとチーズが覗いていて、ゆでたまごとミニトマトのサラダ、オレンジジュース。  数日ぶりの柊吾の手料理に、お腹がぎゅるぎゅるとそれを求める。 「いただきます!」 「どうぞ」  大きく出てしまった声を柊吾に笑われ、それを気恥ずかしく思いながらも食事の手は止まらない。  まともに食べるのは昨日のランチぶりだ。  ちゃんと美味しいと思える時間を柊吾と迎えられた。  日常を過ごせることにほっとする。  穏やかな朝を噛みしめていると、柊吾がそうだ、と口を開いた。  本当に何気ない、まるで今日の天気でも確認するような口ぶりだったから、夏樹は何を言われているのかすぐには分からなかった。
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