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「昨日のことだけど、ごめんな」
「……へ? ごめんって……何がっすか?」
「昨夜の、色々。大人なんだから俺が止めなきゃいけなかったのに、悪かった」
「…………」
どうして謝られているのだろう。
幸せな夜だったと今の今まで思っていたし、求めたのは夏樹だ。
柊吾にそんなことを言わせてしまったと、胸がざわつき始める。
こみ上げそうな涙に苦しい喉を堪え、どうにか口を開く。
「え、っと、謝られる意味が分かんないっす。なんで? 謝るとしたら、それはオレのほうっすよね」
「ううん、俺だ」
「っ、なんで……」
「夏樹はさ、そういうのは好きな人同士でするもんだ、って言ってたじゃん。分かってんのにな……あー、ほら、俺もたまってたから? つい、な」
「…………」
「夏樹と気まずくなりたくないし、なかったことにしてくれると助かる」
柊吾の言葉に絶句し、頭が混乱し始める。
以前夏樹が言ったことを柊吾は昨夜も気にしていた。
ちゃんと覚えているし、好きな人同士がするものだと今もそう思っている。
だが昨夜、それを理由にやっぱりやめようという気にはなれなかった。
つまり自分は、柊吾のことをそういう意味で好きなのだろうか。
長年抱いた憧れは強く、今すぐここでそうだと判断するにはあまりに眩しい。
それに、だ。
仮に自分がそうだとしても、柊吾も同じはずがない。
恋愛に興味がないと言っていたし、現にたまっていたからつい、と今言われたばかりだ。
何事もなかったように収めるのが最善だ、そうしたいのだと柊吾は示しているのだろう。
これからも、今まで通りの関係でいられるように。
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