まだ恋を知らない

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「え、っと……分かりました! なかったことにっすね! 了解っす!」 「うん、ありがとな」 「でも……一個だけお願いがあります」 「ん?」 「椎名さんがそう言うなら、オレ謝らんときます。でも、椎名さんも謝らんでください。ちゃんとなかったことにする、するけどオレは、幸せだったから……謝ってほしくなかです」 「……うん、分かった」 「へへ、あざす! えーっと、オレ、ジュースのおかわり入れてくるっす! 椎名さんは?」 「じゃあ俺ももらおうかな」 「はーい!」  逃げるようにふたつのグラスを持ってキッチンへ行き、ダイニングへ背を向けて冷蔵庫を開ける。  大丈夫、大丈夫だ。  この先気まずくならないようにと言ってくれたのだから、嫌われたわけではないはずだ。  だから大丈夫だ。  紙パックから注いだら、丁度ふたり分でジュースは終わった。  冷蔵庫の冷気で頬が冷えて、このジュースみたいに涙もこれっきりで終わらせることが出来る。  バレないように拭ったら、いつものように笑うのだ。 「お待たせっす! 椎名さん今日仕事っすか?」 「うん、これ食べたら出るわ。夕飯何がいいか連絡して、それ作るから」 「オムライスがいいっす!」 「はは、もう決まったな」 「へへ、椎名さん特製の楽しみにしてるっす!」  大丈夫になりたい。  大丈夫、そう出来る。  夏樹はただただ、必死に願った。
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