手は届かない

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「ありがとうございました」  アクセサリーを購入してくれた客を見送り、naturallyの店内へ戻る。  平日の十五時過ぎ、客の姿はなく尊とふたりになった店内で、夏樹は小さくため息をついた。 「夏樹、なんかあった? 最近元気ない」 「あ……ごめんなさい、オレ暗かった? さっきのお客さん、嫌な思いしたかな」 「それは平気。嬉しそうに帰ってったじゃん。真っ先にそういうの気にするとこ、夏樹らしいな」  いくつかの指輪をショーケースの中に戻しながら、尊はそっと微笑んでくれた。  口数が多いほうではないながら、いつだって夏樹に寄り添ってくれる。  その優しさについ甘えたくなる。 「尊くん、オレ……好きな人、がいて」 「うん」 「……なんか色々、苦しくて」  綾乃と別れたことは、尊にも話してある。  もう次の恋か、と思われても仕方がないと思ったが、すんなり頷いてくれたことに泣いてしまいそうだ。  それでもどうにか絞り出したのは、何の相談にもなっていないものだった。  詳しく言えるわけがないのだ、その相手が尊もよく知る柊吾で、最近またセフレのところに行ってしまうのが辛いです――なんて。  夏の間、柊吾が夜に出掛けることはなくなっていたが、あの日――夏樹と触れ合って以降、また家を空ける日が出てきた。  どこに行くのかなんて聞く気にはなれない。  十中八九、セフレと会っているのだろうから。  柊吾がセフレなんて似合わないな、とモヤモヤしていた以前までとは訳が違う。  好いた相手なのだ、行かないでと腕を掴んでしまいたい。  だがそんな権利などあるはずない。  恋心で夏樹の心境が変わったところで、そんなもの柊吾には関係ないのだ。 「恋ってさ、しんどいよな」 「え?」
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