手は届かない

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 送信先を間違えたのかと一瞬思ったが、しっかり“夏樹くん”と明記されている。  思えば上京してからこっち、誰かと遊んだことはなかった。  家には柊吾と晴人がいるし、naturallyに出勤すれば尊と話せる。  それを寂しいと思ったこともない。  さてどうしたものか。  美奈といえば思い出すのはまず、撮影時の目を見張るような仕事への取り組む姿勢。  人気があるモデルはカメラが回っていないところでもプロとしての意識が高いのだと、感心させられたのをよく覚えている。  それからもうひとつ、晴人の忠告だ。  男漁りが激しいタイプ、ぱくっと食われちゃうかもよ――  晴人のことを疑うわけではないが、夏樹の記憶の中の美奈はやはりそんな風には見えなかった。  仮にそうなのだとしても、自分がその対象になり得る気がしない。  それに何より、第一線で活躍する美奈から吸収出来るものが絶対にある。  未だ燻っている状態の夏樹にとって、これは魅力的な誘いだった。 <美奈さんお久しぶりです! ぜひ!>  少しの緊張感を覚えながらそう返信すると、すぐに既読のマークがついた。  そしてテンポよく返って来たのは、とある場所のホームページのURLだった。  夏樹が今いる場所から五駅ほど先にあるようだ。 「クラブ? って行ったことなかけど……まあいっか」  電車に乗り、クラブの最寄り駅で降りる。  マップとにらめっこしながら辿り着いたそこには、地下へと続く階段があった。  本当にここで合ってるよな、と数回看板を確認して下りる。  意気ごんで来たはいいが、初めての場所にやはり緊張感は否めない。  ごくりと息を飲んで扉を開く。  するとその瞬間、爆音の音楽が夏樹の耳を劈いた。  あまりの音量にびくりと体が跳ねてしまう。  こういう派手な場に慣れていない、田舎者だと語っているようで恥ずかしくなる。  周りに人がいなかったのは助かった。
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