手は届かない

6/14
前へ
/134ページ
次へ
 大きく息を吐いて気を取り直し中へと進むと、エントランスがあり入場料として二千円が必要とのことだ。  払えないほどではないが、突然のことに少々懐は痛む。  それでも何か得られるのならば安いものだろう。  支払いが済んだところで美奈に着いたと連絡を入れ、中へと進む。  爆音の次に夏樹を刺激するのは、煌びやかな照明だ。  加えて、ごった返す若者たち。  踊る人たちがそこかしこに溢れていて、テレビでしか見たことのない世界に呆然とする。  頭に浮かぶ文字は、場違い。  ただそれだけだ。  許されるものならば、今すぐに帰りたい。  二千円は無駄になるが、お腹が痛くなったとでも言ってそうしてしまおうか。  そう思ったのだが、引き返すより先に美奈に見つかってしまった。 「夏樹くん!」 「あ、こんばんは!」 「ふふ、来てくれて嬉しい」  夏樹の腕に美奈の腕が絡まって、声が聞こえるようにと体をぐっと寄せられる。  途端に感じるのは香水の甘い香りと、アルコールの匂いだ。  もう酔っているのだろうか。  こんな場所では、モデルとしての教訓だとか、そう言った真剣な話が出来る気もしない。  完全に見誤った。  とは言え、そそくさと逃げ帰るわけにもいかないだろう。  美奈に腕を引かれるまま、夏樹は身を任せることしか出来ない。 「夏樹くん、何飲む?」 「えっと、じゃあ何かジュースを」 「え~? お酒飲まないの?」 「いやだってオレ、まだハタチになってないですし」 「ふふ、ちゃんとしてるんだね。偉いなあ。じゃあ……すみませーん、オレンジジュースひとつ」
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!

186人が本棚に入れています
本棚に追加