手は届かない

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「そっか。やっぱセフレとかそういうのって、汚らわしいなって感じ?」 「それも正直あります。椎名さん、あんなに優しいのに何だか似合わないなって思ってたし。でも今は……それだけじゃなくて」 「うん」  恋愛に興味がない、でもそういうことはしたい。  そうだと言うなら、セフレという存在はうってつけなのだろう。  でもやはり同じに思える、危険だとクラブから夏樹を遠ざけながら、そこに身を置くように。  愛情深い柊吾がセフレを持つのは、自身を雑に扱っているように感じられる。  それがただただ悲しい、どうにか出来ないものかと歯がゆく思ってしまう。  柊吾のことが好きだからだ。  ソファに座っていた晴人が、夏樹の隣へと降りてきた。  慰めるように肩を抱きトントンと撫でてくれて――この人になら打ち明けてもいいのではないか。  そんな気がしてくる。 「晴人さん、オレ」 「うん」 「あの……びっくりするかもですけど、オレ、椎名さんのことが好き、なんです。だからその、椎名さんがセフレのとこ行くの、もうずっとしんどくて。そういう危ないところに椎名さんを呼ぶような人なら、もっと嫌です」 「うんうん、そっか」 「晴人さん……驚いたりとか引いたりとか、せんとですか?」 「んー? しないよ。だって俺知ってたし。やっと言ってくれて嬉しい」 「へ……え! なんで!?」 「だって夏樹、めっちゃ分かりやすいもん」 「ウソ……じゃあもしかして、椎名さんにもバレて……」 「ああ、それは大丈夫。アイツ、そういうの鈍感だし。鈍感っていうか、今までシャットダウンしてたっていうか?」  柊吾への想いに気づかれていた?  想定すらしていなかった事実に、夏樹は一気に青ざめた。  だが、柊吾は気づいていないと晴人が豪語する。  幼なじみがそういうのだから、その点は安心していいのだろう。  それでもやはり狼狽えずにはいられない。  よくよく考えてみれば誰かを好きになることも、こんなに苦しくなるのも夏樹にとっては初めてのことなのだ。  体から恋が零れていたなんて、穴があったら入りたいくらいに恥ずかしい。
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