手は届かない

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「ありがとう、夏樹は優しいね」 「いえ、オレも飲みたかったんで丁度よかったです」  そう言いつつ、夏樹はペットボトルのふたを閉じてそれをテーブルに置いた。  狭苦しい喉に、ぱちぱち弾けるサイダーはきっと重い。 「じゃあ続きね」 「はい」 「夏樹が大事にしてる、柊吾の写真あるでしょ。あの一回こっきりの、モデルやった時のヤツ」 「はい」 「あれ、俺たちが高三の時だったんだけど、そりゃもう学校中が湧いたよね。既にモデルやってた俺は真新しさがないもんだから、柊吾の話で持ちきり。  そんで、まあ元々モテてはいたんだけど、そこから桁違いでさ。話したこともない、柊吾からすれば顔すら知らない子たちが我先にって告白してくんの。そんで、真摯に対応してごめんねって言っても、急激に態度変える子もいたりして。  それがさー、柊吾にはショックだったんだよね。なんだ顔だけじゃん、恋愛ってこんなもんか、って。愛とかやっぱり俺には縁がなさそう、って落胆しちゃったみたい。  それからだよ、アイツがセフレ作るようになったの」 「オレがここに越してきた日、踏んだ地雷ってそういうことだったんすね。かっこいいって言って、セフレのことで勝手にショック受けて……」  傷を抉ってしまったのだなと、あの日のことが改めて胸を黒く蝕む。  だが晴人は、「いや、今思えば夏樹はよくぞ言ってくれた」なんて言って不敵な笑みを覗かせる。 「俺もさ、柊吾がああいうとこ出入りしてセフレとヤッてんの、正直よく思ってなかった。でもそうなった経緯全部知っちゃってんから、やめろよとか言えなくてさ。それに、夏樹が言ったことに意味があると思う。じわじわ効いてきてんだよなー、多分」 「…………? どういう意味っすか?」 「うーん、それはちょっと俺からは言えないんだけどー……ねえ夏樹、これは俺の勝手な憶測なんだけどさ。柊吾、確かにセフレに会いにクラブ行ってるけど、今は多分、夏樹が考えてるような感じじゃないと思う」 「え?」 「夏樹は知らないよねー、柊吾が出掛ける時絶対アイツのほう見ないし? 柊吾のヤツ、夏樹をじっと見てしんどそうにため息ついて、そんですげー嫌そうな顔で渋々出掛けんの」 「そう、なんすか? なんで?」 「なんでだろうねえ? 前まではあんなんじゃなかったのにね」
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