手は届かない

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 柊吾の過去のこと、最近のこと。  知らなかったものがたくさん晴人から出てきて、夏樹は整理するのに精いっぱいだ。  恋愛には興味がないと言った柊吾は、実は愛を求めている。  柊吾自身が吐いたその言葉より、柊吾を表すものとして愛というワードはぴったりだと思った。  とことん優しくて、あったかくて。  夏樹が好きになった柊吾は、愛に溢れた人だから。 「晴人さん」 「んー?」 「オレ、雑誌で初めて椎名さんを見た時、流れ星がここに落ちてきたみたいだ、って本気で思ったんです」  こちらを向いた晴人と目を合わせ、夏樹は心臓の上のシャツをぎゅっと握りこむ。 「東京に来たら会えるかなって、正直ちょっと期待もしてたら本当に会えて……本物はかっこいいだけじゃなくて、いや最高にかっこいいんすけど、すげー優しくて……  椎名さんと並んでも恥ずかしくないような男になりたいな、って思ってます。目標みたいな人なんです。  オレに何か出来るとは思わないですけど……そんな椎名さんには、幸せでいてほしいです」 「うん、そうだね。はは、夏樹ほんっといい子! 夏樹に話してよかった」  ぎゅっと抱きしめられて、大きな犬を愛でるみたいに髪をかき混ぜられる。  くすぐったく思いながらも身を任せていると、体を離した晴人は何かを思いついたように片眉を上げる。 「夏樹にとっての柊吾ってさ、流れ星っていうよりあれみたいだよね。北極星」 「北極星?」 「そう。いつ見ても同じ場所にあるから、道しるべになる星」 「道しるべ……うわ、オレにとっての椎名さんだ」 「でしょ?」  日々の生活はもちろん、そのずっと前から、夏樹は柊吾からたくさんのものを貰っている。  そんな柊吾に自分が返せるものは何だろう、出来ることを探したい。  でもそれはきっと、簡単に見つかるものではない。  だから今はせめて、毎日ほんのひとつでも笑顔を贈れたら、なんて思う。  もしもそれが出来たなら、柊吾はほんの一瞬でも幸せだと感じてくれるだろうか。
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