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返事はしてくれたものの、柊吾は夏樹のほうも見ようとはしない。
やはり昨日は出過ぎたことを言ってしまったのだろう、怒っているのかもしれない。
運んでもらったらしいことを覚えていないと悔やみつつも、夜のうちに帰ってきたのだと内心喜んでしまったのだが。
そんな場合ではなかったのだ。
「あ……あの、椎名さん。昨夜はその、ごめんなさい」
「え? あー、いや、ごめん夏樹。態度悪かったよな。昨日のことはその、嫌とか思ってないから。謝らなくていい」
「え……でも」
「いいんだよ夏樹、柊吾のそれは気にしなくても。ビギナーがどうしたらいいか困ってるだけ」
「晴人、ちょっとお前は黙れ」
「…………?」
やっと顔を上げてくれた柊吾の頬に、うっすら赤い色が見えた。
相変わらず晴人はくすくすと笑っていて、柊吾はそれに腹を立てたかのように「それやめろ」と言っている。
一先ず、昨夜のことが尾を引いているわけではないということだろうか。
安堵した夏樹は握りしめていたスマートフォンにふと気づき、リビングに飛んできた理由を思い出す。
「そうだオレ、さっき社長から電話が掛かってきて!」
慌ててそう言うと、柊吾と晴人が顔を見合わせた。
晴人の視線がすぐに夏樹へと返って、それで? と先を促してくれる。
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