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事務所の最寄り駅へは乗換案内のアプリも必要ないし、そこからだって宝の地図みたいなマップはもう見なくたって平気だ。
エレベーターで五階へと上がり、顔見知りと言えるくらいになったスタッフたちへ挨拶をしながら奥へと向かう。
「社長、おはようございます!」
「おはよう南くん、待ってたよ」
座るようにと促されたのは、上京してきた日と同じソファだ。
腰を下ろすと、早川の瞳がまっすぐに夏樹を映す。
「ではさっそく。南くんに、アクセサリーのブランドからオファーがあった。来年のカタログへの出演をお願いしたい、とのことだ」
「っ、マジですか!?」
「はは、“マジ”だよ。驚いた?」
「めちゃめちゃびっくりです……電話でいいことだよって言ってもらってたけど、やっぱりすごく緊張しちゃって……はは、嬉しすぎて今心臓バクバクしてます。あの、でも何でオレに?」
仕事が入っている柊吾と晴人は、夏樹より先にマンションを出た。
柊吾は激励の言葉を改めて伝えてくれて、晴人はハグをしてくれた。
だが優しい人たちにもらった勇気は、ここに来るまでに使い果たしてしまったかと思うくらい、酷く緊張していた。
だが本当に“いいこと”だった、しかもとびきりの。
安堵して、そして奮い立って。
体中で心拍を打つみたいに息は上がっている。
「南くんが載ってる雑誌とかを見て任せたいと思った、とのことだよ。ピンとくるものがあったみたいだね」
「うわあ、すげー……」
「有り難いことだよね、南くんの努力が引き寄せたんだよ。よかったね」
「はい、嬉しいです! 社長や前田さんとか、ここの皆さんのおかげです!」
「ありがとう。私のおかげだと思ってはいないけど、そういう気持ちを忘れないでいられる子は伸びるから、南くんがまっすぐそう言ってくれて嬉しいよ」
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