流れ星の落ちるところ

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 じゃあ話を進めようと言って、早川はコーヒーをひとくち啜った。  スタッフから南くんもどうぞと同じくコーヒーが差し出される。  いつもならミルクや砂糖をたくさん入れて飲むところだが、今は喉を通る気がせず早川の話をじっと待つ。 「このカタログでは、男性と女性、女性同士、男性同士のふたりずつのページを設けたいらしい。全て恋人の設定。南くんにお願いしたいのは、男性同士のページとのことだ」 「はい。あの、それって何ていうブランドですか?」 「ああ、そのことなんだが……南くん、ブランドがどこか知ったら、君はどうする?」 「へ……えっと。ブランドの歴史調べたり、これまでのカタログを見たりして、どう映るのがいいか、何を求められているのか研究したいです」 「うん、そうだよね。そんな南くんが私は誇らしいよ。でも……このブランドは、アクセサリーや今回のカタログを通して自然体でいられること、自然な自分に似合うものを、ということを伝えたいらしい。  だから撮影当日もまっさらな南くんでいられるように、ブランド名は伏せておいてほしいと言われている」 「…………」  カタログの構成を聞いた瞬間、夏樹の頭にはnaturallyのコンセプトが浮かんだ。  伝えたいものにも通じるものがある。  まさか、と浮かんだそれを、だが夏樹は早々に打ち消す。  余計なことは考えない、それを求められているのだから。  ただ、絶対に成し遂げるという意志は強く胸に持っていよう。  研究が出来なくても、現場ではたくさんのことを吸収して、それを体現出来るモデルになりたい。 「これは先方からの条件とも言えるよね。私としては正直、随分だなとも思ったんだけど」 「情報が何もないのは正直緊張しますけど……そうしたほうがいいものが出来るって、ブランドの方は思ってるってことっすよね。大丈夫です!」 「ふふ、頼もしいね。じゃあこの話、正式に引き受けるということでいいね」 「はい!」 「先方には私から連絡しておくよ」 「宜しくお願いします!」
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