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ついに迎えた、アクセサリーカタログ撮影の日。
マンションを出る際、晴人がハグで見送ってくれた。
柊吾の姿は見当たらず、勝負の朝に顔を見られなかったのは心残りだが、作り置いてくれていた柊吾手製の朝食はとびきり美味しかった。
前田の運転する車に乗りこみ、都内のスタジオに入る。
案内された楽屋でディレクターと挨拶を交わす。
今日の今日まで、本当に前情報は一切夏樹に伝えられることはなかった。
渡された絵コンテを片手に、ディレクターが話す大まかな流れを頭に叩きこむ。
「上半身は裸になってもらいます。男性同士ふたりのページなので相手の方もいますが、コンテを見てもらえば分かるようにあくまでも主役は南くんです。
ただ、あまり気を張らずに。
カメラマンの指示は聞きつつも、なるべく自然体でいることを意識してください」
「はい!」
自然体を意識する、というのは言葉に矛盾が生じている気もするが、そうディレクションされれば応じるのみだ。
返事をしつつ、スタイリストの指示で上半身の服を全て脱ぎ、バスローブを羽織る。
「それじゃあスタジオで。今日は宜しくお願いします」
「はい! こちらこそ宜しくお願いします!」
ヘアメイクをされている時から最高潮に思えた心拍は、スタジオに入ると更に上昇した。
カメラマンに先ほどのディレクター、他にも数人のスタッフたちが既に準備をしていて、緊張は留まるところを知らない。
上擦ってしまった声でそれでもどうにか「宜しくお願いします!」と頭を下げて、カメラの前へ立つ。
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