家へ

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 電車賃をケチって、九段下で東西線へ、更に西船橋で総武線に乗り換えた。平日ということもあってか、列車の中はまばらに席が空いている。僕は少し傾きかけた陽が輝く車窓の外を黙って見ていた。  目的の駅まではまだ幾分か時間がかかる。少し休もう。そう考えてそっと目を閉じた。この電車は安心感を与えてくれる。心地よい小さな揺れと、静かな車内は眠るにはうってつけだった。   3日前   久しぶりに電話をかけてきたのは、就職の機に家を出たっきり、もう3年近く会っていない母だった。  今まで母は何度か電話をかけてきた。大抵は元気にやっているか、とか、何か送って欲しい物はあるか、といった内容である。その度に大丈夫だ、大丈夫だとのらりくらりと返事をしてきた。半年に一回のペースである。  だが、今回は状況把握といった薄っぺらい内容ではなかった。 「ちょっとあんた、ちゃんと生活できているの?」  僅かに怒りを孕んだ母の声に背中が少し冷たくなった。 「うん……まぁ、ぼちぼち」つい声が小さくなる。「死なない程度には……」 「死なない程度にはってねぇ、(あおい)から聞いたけど、会社辞めたんだってねぇ? 何でそれを早く言わないの。こっち帰ってきても良いのに」  碧は僕の2歳下の妹だ。東京の大学を出て、そのまま就職した。自分が借りているアパートから碧の社宅までは数駅という距離だったので、たまに夕飯を一緒に食っていた。兄妹仲は割と良い方である。だから仕事を辞めたことも碧にはしていた。理由はともあれ、碧も納得しているように見えたので安心しきっていた。 「バラしたのか」 「碧が心配して相談してきたの! 人聞きが悪いこと言わないでちょうだい」  ピシャリと母が言う。どうも相当怒っているようだ。
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