家へ

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「とにかく、詳しいことは全部聴いたから、まずはそのアパートから出なさい。今すぐに。そしてこっちに帰ってきなさい」 「無茶言うなよ。それに実家には帰りたくない」 「それだったら別のところでも良いから! 早く出なさい!」  母は遂に怒鳴った。携帯が震えそうなほどの声であった。 「……はっ」  ふと気付くと電車のドアは空いていた。いつの間にか寝ていたらしい。しかし気持ちの良い眠りでは決してなかった。身体中が汗でじっとりとしている。  嫌な予感がして車内案内の液晶に目を遣った。そこには確かに「幕張」と表示されている。  驚いている暇は無かった。ここが目指していた駅である。棚からボストンバッグを引き摺り下ろすと、鉄砲玉のように外へ出た。幸いにも、ドアは体が完全に外に出た後に閉まった。  嫌な汗は引かない。乗り物酔いはしない体であるが、何かが胃からせり上がってくる感覚に襲われた。 「うっ」  嘔吐(えず)きそうになって慌てて手を口へやる。だが、本音を言うと、この気持ち悪いものを全て吐き出したかった。    吐き出したい、いや駄目だ、吐きたい、いやここでは駄目だ……    二つの感情がぐるぐると回り、その場に立っていられなくて(うずくま)る。  
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