8人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
「とにかく、詳しいことは全部聴いたから、まずはそのアパートから出なさい。今すぐに。そしてこっちに帰ってきなさい」
「無茶言うなよ。それに実家には帰りたくない」
「それだったら別のところでも良いから! 早く出なさい!」
母は遂に怒鳴った。携帯が震えそうなほどの声であった。
「……はっ」
ふと気付くと電車のドアは空いていた。いつの間にか寝ていたらしい。しかし気持ちの良い眠りでは決してなかった。身体中が汗でじっとりとしている。
嫌な予感がして車内案内の液晶に目を遣った。そこには確かに「幕張」と表示されている。
驚いている暇は無かった。ここが目指していた駅である。棚からボストンバッグを引き摺り下ろすと、鉄砲玉のように外へ出た。幸いにも、ドアは体が完全に外に出た後に閉まった。
嫌な汗は引かない。乗り物酔いはしない体であるが、何かが胃からせり上がってくる感覚に襲われた。
「うっ」
嘔吐きそうになって慌てて手を口へやる。だが、本音を言うと、この気持ち悪いものを全て吐き出したかった。
吐き出したい、いや駄目だ、吐きたい、いやここでは駄目だ……
二つの感情がぐるぐると回り、その場に立っていられなくて蹲る。
最初のコメントを投稿しよう!